第18話

文字数 804文字

 夏休みに入ると、僕とかなえは毎日欠かさず会っていた。

 会話の殆どが彼女のお病気のお話であった。

「ねえ翔くん、コスモアカデミアの勉強会に参加してみない?」

 その話に乗った挙句、安庭沢の大滝で危うく遭難しかけた。

「日本東北支部の妖精に会ってみたくない?」

 オオヘンジョウの滝に打たれること三時間。妖精は見えずに三途の川を渡りかけている祖父母が朧げに見えた。あの頃はまだ東京で健在だったのだが。

「量子真空マッサージをしてあげるわ」

 色マジックで色彩された試験管を背中にグイグイ押し当てられ、家に帰り鏡で背中を見たら凄い痣になっていた。

 思い出すだけで吹き出してしまうようなあの夏の二人の思い出の中でもとびきりだったのが、

「ねえ、U F Oに乗ってみたいでしょう?」

 乗れるものなら是非とも、そんな軽い気持ちが命懸けの遭難騒動になってしまうとは……

 彼女の神託に従い、ある日僕たちは軽装のままとある山中に入って行った。天候が崩れだし、八合目付近で身動きが取れなくなってしまう。

 暴風雨と濃密な霧が収まることなく僕らに襲い掛かり、這々の体で二人が身を隠せる洞穴に逃げ込んだ。

 夜になり雨は止むも霧は益々濃くなっていき、気温は低下し体温も低下していく。仕方なく身を寄せ合い温もりを分かち合う。

「これは…… 性的なものではなく、生存の為に必要不可欠なことで…」

 そんな余計な言い訳を聞き流し、僕はかなえの細い身体と温もりを存分に堪能する。

 いつの間にか二人は寝てしまい、起きてみるとすっかりと霧は晴れ、木々の濃い緑が目に眩しかった。まだ寝入っているかなえを見下ろし、その美しい寝顔に目がつぶれる思いとなる。

 まるでこの世のものとは思えない幻想的な美しさ。

 申し訳なかったが、思わず唇を塞いでしまった事は永遠の内緒事なのである。

 下山途中に母の出した捜索願による県警の捜索隊と出くわし、下山後こっぴどく叱られたものだった。
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