第28話

文字数 932文字

「そんで、紫波さんはどうなのよ? まあごんだげ美人だがら、彼氏いながった訳ねぁーが」

 涙を拭きながら広田がかなえに挑みかかるも、
「だから私はエハッド・ナヴィなの。処女でなければ宇宙神の啓示を受けられないの」

 この後に及んでも信念を崩さない彼女にちょっと感動する。だが広田はそれを良しとせず、もっと飲めば打開点が見出せると思い込み、更なる缶チューハイを僕らに配るのだった。

 だが、経験の無いものは無いのだ、どれ程追い込もうがかなえの処女性に揺らぎはなく、酎ハイが空になる頃にようやく広田的にかなえの処女性が認知された様子だった。

 それに引き換え、どうやら古舘の非処女性は否めない空気が蔓延し、何故に広田が古舘に固執するのかが理解出来始める。

「頼む、俺を男にしてぐれ、俺に快楽どは何が教えでくなんしぇ!」

 僕の興味は広田の脱童貞よりも彼女が如何に大人になったかである。

「仕方ねぁーなあ、他の人さ言わねぁーでけろ。中二の時にね、」

 それから約一時間、彼女の目眩く快楽に溺れた日々の話を聞かされ、危うく僕も彼女の僕になりたいと思ってしまう。すげえな田舎、東京では考えられない性活だぜ…

 ふとかなえを見ると、酔いが回ったせいか転寝をしている。このままここで四人で雑魚寝でもするかと言うこととなり、狭い男テントに蒼き男女が悶々としながら朝を迎えるのであった、熟睡しているただ一人を除き。

 これ程男女がぶっちゃけた話をした経験は無い。キャンプ場を後にし帰宅の途につく自分が少し大人になった気がする。

 広田、古舘と別れかなえと二人で家に向かう途中、かなえが荷物が重いのでアパートまで運んでくれないかと言っても、これまでのような妙な性的期待は全く生ぜず普通に荷物を運び、彼女が淹れてくれた紅茶を啜るのであった。

 キャミソールに着替えてきた彼女を見ても、その双丘の膨らみを間近で眺めても、蒼き衝動は全く昇華せず、広田のへたれ具合を二人で笑ったものだった。

 そんな僕の様子を察してか、安心した様子で僕に隣に座り頭を僕の肩に預けてくる。成る程、僕が欲すれば彼女は離れて行き、僕が欲望を完全に制御すれば彼女は近付いてくる。

 その相反する原理に漸く気付き、かなえとの接し方を完全に理解出来た。
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