第59話
文字数 1,033文字
二月に入り、弟が東京の祖父母の家に引っ越しをした。
あれ程ウザがっていた受験勉強だったが、東京から戻ってからは毎日課題をこなし、それなりの準備を進めていたのが驚きだった。
去年の今頃は嫌々勉強していたのに、そして岩手に引っ越してからは伸び伸び生き生きとしていたのだが。まもなく小六となり人生の岐路に差し掛かり、自分なりに将来を考えた末の東京行きであろう、上野行きの新幹線に乗り込むその顔の凛々しさに感慨深いものを感じるのだった。
かなえも弟の中学受験には大賛成であり、そんな環境にある弟を少し羨ましそうに思っている様子である。
自分も大学は東京か関西に行きたいのだと呟き、それが仲間への方便でないことを知り少し驚く。てっきり高校卒業後は実家の神社を継ぐものと思っていたのだが、彼女曰くそれは自分の弟に任せるのだ、私は私の道を進みたいと正月に親族と話し合ったと言う。
初めは母親が抵抗したのだが、マタギの父親が自分のしたい事をすればいい、そしてダメなら戻ってくればいいと言ってくれたと言う。
そんなかなえが、
「翔ぐんは進路どうするの?」
僕はまだ考えていない、大学に進むかも決めていないと答えると、
「一緒さ東京の大学さえぐベーよ、関西でもいいわ。とにがぐおめはんと一緒さ過ごして行ぎでの」
と恥じらいながら溢す。僕も耳まで真っ赤になるのを感じながら、それもいいな、と答える。
父にそのことを話す。父は是非東京の大学に進んで欲しいと言う。弟の事もあるし、祖父母の面倒も見てくれると大いに助かると言う。
自分は当分本社に戻れまい、東京に残してきた両親が心配なのだ、と呟く。
父のこんな本心を聞くのは初めてで、大いに戸惑いながらも自分に任せて欲しいと言うと、目を細めながら僕の肩を叩いた。
私立でも構わない、四月から盛岡の予備校に通うといいと言ってくれる。翌日学校で調べると、JR宮古駅前に大手の予備校のサテライト校があると知り、かなえを誘って下校後見学に行く。
その場で簡単な入校テストを受け、二人とも即日入校を許可される。かなえは満点近い成績であったので、特待生扱いとなり入学費や授業料が大幅に免除された。
帰りの電車の中で、付き合わせてしまい申し訳なかった、あの予備校でよかったのか聞くと、
「何処の予備校でもいいの、おめはんと一緒さ勉強出来るんだら」
と言ってくれ、思わず手を握ってしまう。彼女をそれを振り解こうとせず、結局電車を降りるまで手を繋ぎっぱなしであった。
あれ程ウザがっていた受験勉強だったが、東京から戻ってからは毎日課題をこなし、それなりの準備を進めていたのが驚きだった。
去年の今頃は嫌々勉強していたのに、そして岩手に引っ越してからは伸び伸び生き生きとしていたのだが。まもなく小六となり人生の岐路に差し掛かり、自分なりに将来を考えた末の東京行きであろう、上野行きの新幹線に乗り込むその顔の凛々しさに感慨深いものを感じるのだった。
かなえも弟の中学受験には大賛成であり、そんな環境にある弟を少し羨ましそうに思っている様子である。
自分も大学は東京か関西に行きたいのだと呟き、それが仲間への方便でないことを知り少し驚く。てっきり高校卒業後は実家の神社を継ぐものと思っていたのだが、彼女曰くそれは自分の弟に任せるのだ、私は私の道を進みたいと正月に親族と話し合ったと言う。
初めは母親が抵抗したのだが、マタギの父親が自分のしたい事をすればいい、そしてダメなら戻ってくればいいと言ってくれたと言う。
そんなかなえが、
「翔ぐんは進路どうするの?」
僕はまだ考えていない、大学に進むかも決めていないと答えると、
「一緒さ東京の大学さえぐベーよ、関西でもいいわ。とにがぐおめはんと一緒さ過ごして行ぎでの」
と恥じらいながら溢す。僕も耳まで真っ赤になるのを感じながら、それもいいな、と答える。
父にそのことを話す。父は是非東京の大学に進んで欲しいと言う。弟の事もあるし、祖父母の面倒も見てくれると大いに助かると言う。
自分は当分本社に戻れまい、東京に残してきた両親が心配なのだ、と呟く。
父のこんな本心を聞くのは初めてで、大いに戸惑いながらも自分に任せて欲しいと言うと、目を細めながら僕の肩を叩いた。
私立でも構わない、四月から盛岡の予備校に通うといいと言ってくれる。翌日学校で調べると、JR宮古駅前に大手の予備校のサテライト校があると知り、かなえを誘って下校後見学に行く。
その場で簡単な入校テストを受け、二人とも即日入校を許可される。かなえは満点近い成績であったので、特待生扱いとなり入学費や授業料が大幅に免除された。
帰りの電車の中で、付き合わせてしまい申し訳なかった、あの予備校でよかったのか聞くと、
「何処の予備校でもいいの、おめはんと一緒さ勉強出来るんだら」
と言ってくれ、思わず手を握ってしまう。彼女をそれを振り解こうとせず、結局電車を降りるまで手を繋ぎっぱなしであった。