第49話

文字数 617文字

 初めての冬。

 東京しか知らなかった僕が迎えた岩手の冬は、想像を軽々と超えたものであった。雪がこれ程ウザく面倒なものであるとは思ってもみなかった。東京にいた頃は雪が降るのは一冬で数回、ちゃんと積もるのは年に一、二回なので完全に積雪を舐めていた。

 だが彼らに言わせれば、この辺りの積雪は大したものではないらしい。ここは太平洋岸なので内陸部に比べれば屁でも無い、と。

 それでも僕は、歩けない。雪道をまともに歩けなかった。その僕のへっぴり腰で歩く姿は広田や古舘から大笑いされた。

 だが人間は成長する、二週間もすれば普通の東北人として闊歩出来るようになった。

 だが都会住み時代には想像も出来なかった困難に直面し、大いに戸惑う。その困難とは、『除雪作業』であった。

 除雪は家の玄関から始まる。玄関から門、そして自宅前の歩道。それを全て除雪しなければならない。

 降雪後の父と僕は毎朝この作業に忙殺される。そして夕方帰宅するとまた同じ作業の繰り返しである。

 最初の一週間は毎日父に愚痴をこぼし、頼むから早く本社に復帰して欲しいと告げていた。

 だが人間は慣れる、二週間も経つと普通の東北人らしく朝夕の除雪が苦で無くなってきた。いや寧ろ除雪しないと一日が始まらず終わらない気持ちになっていた。

 この心境の変化を父と論ずるも、結局自分らは歯車の一つに過ぎない。どんな環境でも諦めと慣れで何とでもなってしまう悲しい性なのさ、と言うことで落ち着くのであった。
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