第51話

文字数 648文字

 それでも冬の最大のイベントであるクリスマスが容赦無く近付いてくる。

 去年は友人宅で朝までパーティーだった気がする。いやそうに違いない。携帯に収められた写真を眺め、大きな溜息をついてからスコップを握る手に力を入れる。

 今年は、俺、クリスマス、何してるんだろ。

 広田は本家筋で集まると言うし、古舘も漁協の集まりに家族で参加すると言う。何故かその集いに僕の父もメーカー代表として参加するらしい。

 母は薬局のスタッフとパーティーをすると言うし、弟は同級生宅でお泊まりで集うそうだ。

 まさかのボッチクリスマス?

 有り得ない、信じられない。こんなこと東京の仲間に告げられない。そう言えば最近あいつらと連絡していない。

 生まれて初めて、生きているのが辛くなる。

 こんな辺鄙な土地に来ても割と楽しくやって来た、だが今、死にたくなる程辛い。

 その理由。

 かなえが離れていったから。かなえとの繋がりが細く薄くなったから。

 陰キャで妄想癖を孕んでいた彼女は誰も相手にしなかった、故に僕が独占状態だった。だが妄想癖をやめ、即ち『厨二病』もとい『膠二病』を克服してからは陽キャかつ皆の人気者となり、すっかりかなえとの時間が無くなってしまった。

 こんな事なら、元のかなえのままの方が良かった。

 膠二病のままのかなえの方が良かった。

 時間を元に戻したい、もう一度あの田沢湖に戻りたい。

 そんな非現実的な事を考えるようになる、これでは俺が膠二病じゃねえか……

 それ位十二月半ばの僕は追い詰められていた、冬の東北の暗さと重さに。
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