第46話

文字数 665文字

「大丈夫だから。そっちはずっと我慢するから。全然平気。それよりも、俺ちゃんと聞きたいかも。聞いてもいい?」

「翔ぐん…… 聞ぎでこどって?」

「俺はかなえちゃんが好き。かなえちゃんは俺の事?」

 えええーー、おしょすいよおー、かなえは布団に潜り込む。

 ちょっ… おしょすいって何?

「ええええ… 無理無理、おしょすくて言えねぁーよお」

 何これ、マジで可愛すぎる。愛しすぎる。

「じゃあさ、はいかいいえで答えてよ。俺の事好きですか? はいかいいえで、さあどっちだ
?」

 布団の中からきゃあーと絶叫するかなえに胸がじんわりと暖かくなってくる。こんな可愛い子未だかつて見たことが無い。

 まるで小さな子供が照れまくっている仕草そのものである。

 漸く僕の心の中の蟠りが溶けていく。そして心の中のジグゾーパズルがカチリと組み合う。

 この子はまだ子供なのだ。幼い子供のままなのだ。

 頭脳と肉体だけが歳なりに成長しているけれど、精神的にまだ幼い純粋な少女のままなのだ。

 彼女との出会いから今この瞬間までが走馬灯のように脳裏を駆け巡る。そして確信に至る。

 僕が彼女を大人にしよう。

 その頭脳と肉体に相応しい精神を育ててみせよう。

 その為に今することは?

 答えは自明だ。

 僕は布団にくるまったかなえを布団ごと抱きしめ、それから手を布団に入れてかなえをこちょこちょとくすぐってやった。

 部屋の外から老婆の静かにしろと怒鳴り声が響くまでずっと。

 翌日、僕たちは手を繋ぎながら宿を後にする。繋いだ手をブンブンと振るとかなえの甲高い笑い声が田沢湖の湖底まで届く気がした。
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