第48話

文字数 608文字

 それ以来、かなえの妄想は徐々に治っていった。

 宇宙神からのお告げは極端にその頻度は減り、神聖なる儀式はほぼ無くなった。アパートの部屋に鎮座していたパラボラアンテナはいつの間にか粗大ゴミとして出され、それまでの儀式で使われていたマジックで着色されたビニール傘もいつの間にか処分されていた。

 然し乍ら、週に一度は『夢のお告げ』を聞かされた、例えば明日南半球の何処かに隕石が落下する、来週アラスカの火山が大噴火し気温が著しく低下する、ヨーロッパのどこかで大火事が発生し何万人も亡くなる、等々。

 勿論、そのどれもが『夢』に過ぎず実現された試しはなかった。もし実現されていたら今頃地球は滅んでいただろう。

 妄想癖が鎮まっていくにつれ、徐々に彼女の周囲に人が集まりだしていった。その誰もがあの子は変わった、とっつき易く明るい子になったと言っている。

 初雪がちらつく頃には僕以外の仲間と帰宅することも増えてくる。

 他人と関わりが増えるにつれ、彼女の妄想はどんどん萎んでいき、冬の訪れの頃にはすっかり普通の美しい女子高校生、と化していた。

 毎日共に帰宅していた頃に比べ、かなえとの距離は開いたかに見えるが、一緒にいる時の濃密さが逆に関係を一層深めている思いであった。

 濃密さと言っても、まだ手を握るとか腕を組むレベルなのであるが。

 もっとレベルを上げていきたい、この冬にこそ! 

 希望と期待に溢れる冬が、すぐそこにやって来ている。
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