第19話

文字数 579文字

 お盆前のある暑い日。冷房がなく扇風機しかない彼女のアパートで僕たちは読書に耽っていた。
 
 余りの暑さに、
「あの、服を脱いでも構わない?」

 そう言いながらかなえは着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。上半身は薄い青のブラジャー姿である。

「良かったら翔くんも脱いで頂戴」

 迷わず僕もTシャツを脱ぎ捨てる。

 これはもしかして、そういう展開? 期待と欲望に塗れながら彼女の半裸姿を舐めるように眺めていると、

「ジロジロ見ないで、恥ずかしい」

 仕方ないだろう、美しすぎるお前がいけないのだ。そう言うと、
「じゃあ。見ても良いけど、触れないでね。波動が低下してしまうから」

 本当にそうなのか? 逆に波動が上昇するのでは? そんな逆説を唱えると、
「それは…… 試したことがないから分からないわ」

 じゃあ、試しに試してみようよ。

「あの、翔くん? どうしちゃったの? 目が、ちょっと怖いよ」

 凝視していた目線を外し、一旦リラックスする。ごめんごめん、忘れてくれ。

「あの…… 少し触れるだけなら… 試す価値はあるかも」

 即座にかなえの横に移動し、そっと肩を抱く。そして抱き寄せる。

「ちょ… 翔くん? あの……」

 戸惑うかなえに構わず、更に抱き寄せる。

 右手をかなえの胸に乗せようとした刹那、携帯の呼び出し音が部屋に響き渡る。

 僕はあからさまに舌打ちし、広田からの電話にぞんざいに応答した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み