第16話

文字数 660文字

 この事は予想外に早く知れ渡ることになった。翌日の月曜日の放課後には全生徒の知るところとなり、広田はしきりに首を傾げつつもこの事実を渋々受け入れてくれた。

 古舘は案外すんなりと受け入れてくれたようだ。と言うか、前々から僕たちの雰囲気を察していたらしく、
「えがったでねぁー。精々仲良ぐしなさいね」
 と言ってくれた。

 何人かの男子生徒に影を踏まれたものの、僕への当たりはそれ程厳しいものではなく、割とすんなりと二人の仲は公認された様子であった。

 然し乍ら彼女の僕への感情は恋愛と言うよりも同じ新興宗教の同志、的な意味合いらしく、その後手を繋いだりとかキスしたりとかの展開には至ることなく夏を迎えるのである。

 何とか苦労の末に二人の写メを撮り東京の仲間にメールすると、岩手にこんな美少女がいるとは知らなかった、お前には勿体無い、田舎で調子こいてんじゃねえ、等々の言われようで苦笑いしか出なかったものだった。

 それでも、都会から離れ荒みかけていた僕の心は大いに潤い、青春を大いに謳歌してやろうと言う前向きな精神状態になれたことは大きかった。

 いや、そうではない。

 生まれて初めて心底好きになった女子の存在に、舞い上がる気持ちを抑え込むのに四苦八苦している自分に酔っていたのであろう。

 生まれてきて良かった、不本意な引越しを受け入れて本当に良かった。それが当時の純然たる気持ちであったことは間違いない。

 そして、来たる夏に過剰な期待を育み、何とかしてかなえと結ばれたい、そんな欲望丸出しの春の終わりを悶々と過ごしていたのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み