第29話

文字数 699文字

 お盆休みに父と母と弟は東京の父の実家に帰った。僕も当然帰ろうと思慮していたのだが、
「一緒に宇宙神の恵みを享受しない? 泊まりがけで来ても良いのよ」

 と言われ、喜んで帰郷をキャンセルさせて貰った。母と弟は僕をニヤニヤしながら眺めている、どうやら彼女の存在を熟知している様子だ。
 父が一言、「妊娠だけは気を付けろ」と呟いたのには度肝を抜かれたが。

 父と母、弟を見送った後、風呂でこれでもかと身を清め、着替えをバッグに押し込んで家の鍵を閉める。

 借家である一戸建ての古い家を眺めながら、「期待してはいけない。理性を保たねばこの手から逃げていくだろう。頑張れ俺。負けるな俺」と自らにエールを送り家に背を向ける。

 街を駆け抜ける潮風を胸に吸い込みながら、己の冷静さを確認する。彼女のアパートが見えて来る、中三の頃の激しい欲望は今は無い。よし、これで良い。僕は彼女の家の呼び鈴を押す。

 そんなかなえが、嬉しそうな顔で僕を出迎えてくれる。

 俗に言う、裸エプロンに近い格好に衝撃を受けるも今夜のテーマである克己心を胸に刻みその姿を受け流す。

 全く何という娘だ。僕を試すような事をして。

 苦笑いが浮かんでくるも、すぐに心を切り替えて彼女のカレー作りを手伝い始めた。

 そう言えば、宇宙神の恩恵を受けるって、具体的にどんな手順なのか?

 食後の麦茶を啜りながらかなえに問うと、
「私が作った集力アンテナをポラリスに向けるの。私たちは生まれたままの姿になり、アンテナから導かれた力を受け止めるの。隣の部屋にアンテナがあるわ、後で持ってくるわ」

 生まれたままの姿… 大丈夫か俺? 頑張れよ俺。自分を励ます自分にまたも苦笑いだ。
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