第68話

文字数 633文字

「これは…… 私のせい… ああ、なんていう事を私はしてしまった……」

 その場にしゃがみ込み、頭を抱えるかなえ。

「私が、宇宙神の信頼を損なったから…… 処女でなくなってしまったから、こんなことに… これは私に下された全知全能の宇宙神、ディオ・コスミコの怒りの鉄槌なの… なんて愚かな私… 己の肉欲に溺れた結果が、この有様…… ああ、取り返しのつかない事をしてしまった…」

 僕は何も言わず、ただただ眼下の地獄絵を見下ろし続ける。

 恐らく父も母も水面下だろう。弟が東京に引っ越していたのだけが幸いだった。

 古舘、広田らはどうしているだろうか。うまく逃げ仰せてくれていれば良いのだが……

 鉛色の空からヘリコプターの音が聞こえてくる。この地獄絵を取材しているのだろうか。

 これ以上立っていることが出来ず、僕もしゃがみ込んでしまう。

 隣で苦悶するかなえを眺める。

 俺のせいだ。

 俺が欲望を抑えることが出来ず、かなえに手を出してしまった。

 俺が我慢することが出来ていたなら、こんな事にはならなかったであろう。

 俺がかなえを信じ、かなえの貞節を守っていたなら、こんな事には……

 ふと、クリスマスの日のかなえの言葉を思い出し愕然とするーー

『来年は地震と津波が来るわ。大勢亡くなるの、みんな気をつけて頂戴』

 彼女は正しかったのだ。

 彼女は病気でも何でもない、真の宇宙神の使徒だったのだ。

 彼女はゼロポイントフィールドから全ての出来事を知ることの出来る、本物のエハッド・ナヴィだったのだ!
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