第24話

文字数 928文字

 その後。山中にある神社まで肝試しをしようと言うことになる。

 広田に、俺は嬉しいがお前古舘とでいいのかとそっと問うと、
「実は俺、前がら狙ってらったんだわ」

 それは知らなかった! でも、古舘はその気がないのでは、と問うも、
「この雰囲気で何とでもなるべ」

 意外にやるなこの漢。と感心しつつ、ジャンケンで負けた僕とかなえが神社に先行することとなる。

 この肝試しの前振りとして広田が人造湖の湖底に沈む集落の話や深夜に木霊する寺の鐘の音の話をしていたので、それなりに震えながら歩き始めた僕だった。

 きっと膠二病のかなえは幽霊だの亡霊だの全く意に介せず、かと思いきや。

 思いっきり僕にしがみ付き、ブルブルと震えているではないか!

 いやちょっとお前さあ、宇宙神の使徒なんだからこんなの何でもないだろう、と問うも、
「それどこれは別なの、お願い、離れねぁーでね」

 と久しぶりに聞く方言で僕はキュンとなってしまう。

 真夏の暑さとは無縁の山道をそろりそろりと歩んで行く。かなえがしがみ付いているので、自然歩みはゆったりとなり、僕の鼓動が深い緑に溶け込んでいく。

 濃い緑の匂いとは別の成熟した雌の匂いが僕の鼻腔をくすぐる。全身が熱くなり額に汗がじんわりと滲む。

 古ぼけた鳥居をくぐり、急な石段を一歩ずつ登っていく。僕が左手を差し出すとかなえがそれをギュッと握りしめる。かなえの手汗が僕の手汗とまぐわい、湿った感触に更に僕の官能は高みへと昇っていく。

 朽ち果てそうな祠に辿り着き、両手を合わせ首を垂れる。かなえも僕に倣いそっと頭を下げた瞬間、僕の理性は満天の星空へと飛び去り、かなえを強く抱き締める。

 一瞬かなえの身体は硬直するも、時と共に軟化していく。

 両手でかなえの顔を抑え込み顔を近づける。暗闇の中でその白い顔だけがぼんやりと鈍く光っている気がする。

 鼻と鼻が触れ合うと、かなえはひっと小さな悲鳴をあげる。僕は構わず唇を突き出し、かなえの唇と触れ合おうとするその瞬間。

 二つの石段を登る足音と共に、
「ちょづど、そったらくっつかねぁーでけろ、気持ぢ悪い!」

 と古舘の非難の声が山中に響き渡り、僕らは慌てて顔を遠ざけ合う。

 この夏の最期の大チャンスはこうして呆気なく逃げていった。
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