第10話

文字数 635文字

 踊りは二十分ほど続き、やがて彼女は大きく息を切らせながら床にしゃがみ込む。

 外が暗くなって部屋の中は更に暗くなり、残念ながら全開の彼女の両足の奥を視認することは不可能であった。

 それでも彼女の汗の匂いが仄かに鼻腔を掠め、失った視覚を十二分に嗅覚が補ってくれている。

 それにしても。

 彼女がこれ程痛い子だとは思わなかった。

 俗に言う、『厨二病』とでも言うのだろうか?

 いや、高校二年生なのだから『膠二病』か。ニカワの如く鬱陶しい、自己承認欲求。彼女は僕に何を認めてもらいたいのだろう?

 確かに先程の事を学校で宣えば、周りからは『変わり者』のレッテルを痛貼され除け者にされるだろう、ましてやこんな田舎町だけに、本当に村八分にされてしまうかも知れない。

 然し乍ら、何故に僕?

 暫く考えて、ああ成る程と頷く。

 僕は東京から越して来たばかりで土地の事もよく分からない部外者。そして自分に興味を持つ男子。だから何を曰うても害は周囲に広がることはまず無い。安全無害、人畜無害。それが僕の彼女にとってのレゾンデートル。

 僕にしても、こんな都会でも見たことのない美しい女子と近づけて素直に嬉しい。それに知識も学識もない僕には彼女の言っている事が全く理解出来ないから、ただ頷いているだけでいい。一緒に探求する脳もないから、そうなんだ、成る程と言っていれば良い。

 そんな僕を、満足そうに見下ろす彼女。

 紫波かなえ。

 真っ暗なアパートの部屋の中で、ようやく僕はこの土地での生き甲斐を見出した。
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