第41話

文字数 632文字

 秋の平日、宿泊客は僕達の他に二、三組の老人グループで、既に彼らは部屋に上がっているとの事。
 
 宿の老婆に男風呂に彼女を入れても良いか伺うと、理解不能の方言と共に何度も頷いたので、許可すると受け取りかなえに伝える。

「一緒に入るって、まさか男風呂に私が?」

 いいじゃないか、混浴だと思えばいいだろう?

「……変なことを考えてないでしょうね」

 あれ、仲秋の候のー

「はいはい。分かったわ。一緒に入りましょう」

 大きな溜息を吐きつつも、男風呂の暖簾をくぐるかなえであった。

 二人して浴衣を脱ぎ、露天風呂に浸かる。冷え切った身体がみるみるうちに生気を取り戻し、やっと生きた心地となる。

「あああ、いいお湯だごど」

 かなえが思わず方言を洩らす。湯気の向こうでご満悦の笑顔が美しく光っている。

「ねえ、あまりジロジロ見ないでくれる?」

 いやいつも全裸で見合っているじゃない?

「それは儀式だから仕方ないの。今は儀式じゃないから、恥ずかしいの。それぐらい分がってけろ」

 うわ… 可愛すぎる…

「んだがらー、ニヤニヤしながらこっち見ねぁーで!」

 やばい、不味い。僕の己が自己主張を開始した模様。慌ててかなえから目を背け、満天の星空を見上げる。ああ、流れ星! 生まれて初めて見たかも!

「翔ぐん流れ星見だごど無がったんだ、さーすが都会育ちだごど」

 キミは小さい頃から飽きるほど見てきたんだろうね?

「そうね、おらは山奥の小せえ集落で生まれ育ったがら」

 朴訥かつ訥々とかなえは自分のことを語り始める。
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