第34話

文字数 1,064文字

 僕的には初めての二人きりでの旅行気分なのだが、かなえにしてみたら災害からの逃避行。そのスタンスの違いから行きの電車の中での話のすれ違いが多々生じ、目的地である何故か青森県の十和田湖の(ひな)びた旅館に到着する頃には互いに口をきかない状態と化していた。

 どうして貴方はそんな浮かれた旅行気分でいられるのか私には全く理解できない、と僕を責め立てるかなえに、気象庁の発表を読んでみろ、何処が百年に一度の台風なのか、どう読んでも中型の勢力で明日には温帯低気圧に変わるそうじゃないか、と言い放つと、

「貴方は私の事を全く信じていないのね。分かったわ、明日の天気を思い知るまで私に話しかけないでくださる?」

 と言いつつ敷かれた布団を可能な限り遠くに敷き直した。

 そして翌日。気象庁の予言が正しかったことを指摘すると、
「貴方が私にいやらしい感情を抱いたからだわ。そうに違いないわ」

 そう逆ギレし、一人朝風呂に行ってしまう。

 仕方なく僕は一人強風の中十和田湖畔で波打つ水面を眺めていたのだった。折角の初旅行がすっかり台無しだ、ひょっとして僕が間違っていたのだろうか。そう思いそっとズボンの中の己に問いかけるも朝から全く元気のない己はうんともすんとも言わず縮こまっていたものだった。

 部屋に戻ると布団は片付けられており、仲居さんが
「若ぇ二人心中すに来だがど思っちゃーのよ、あははは」

 半分くらい何を言っているのか理解出来なかったが、どうやら普通に僕らの事を心配してくれていたようだ。朝風呂から戻ったかなえにその事を話すと、
「なんで翔ぐんと心中しねぁーばなんねぁーのよ、馬鹿みだい」

 と更に理解出来ない方言で返されてしまった。

 それでもそれがきっかけでかなえの機嫌は少し戻り、朝食後に旅館を出ると
「十和田湖の神様に挨拶しなくては」

 と湖畔を散策したものだった。

 その途中、強風に煽られてかなえが危うく湖に落ちそうになり、慌ててその身を抱え込んだ。運よく、いや運悪く背中から抱き抱える形になった為、彼女のBカップをしっかりと握りしめてしまう。

「神聖な場で、貴方は何てことを!」

 激昂するかなえにヘラヘラ笑いながら謝罪する。

「やはり貴方のいやらしい感情が私の波動を乱しているわ。ああ、この先どうすれば…」

 と真剣に悩み出したのには少し焦り、もう二度と淫らな気持ちをキミに抱かないと誓うと、
「そうして頂戴。でなければ、貴方を救うことが出来ないのだから」

 と真顔で返され、少し凹んでしまう。

 こうして初の二人きりの旅行はほぼ台無しな有様となってしまったのだった。
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