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文字数 944文字
<宿屋1F 酒場兼食堂>
食べ進めていた手をとめ、
カノンはふと、窓の外を見やる。
ご機嫌よう、お嬢さん
突然声をかけられたかと思うと、
こちらが返事をする間もなく、
向かいの席に座られてしまった。
知らない顔の出現にとまどいながらも、
カノンは口を開いた。
カノンは目の前で優雅に
紅茶を啜っている男に問いかける。
待ってましたといわんばかりに、
男は弓なりに笑みを浮かべてから、雄弁に語りだした。
空になったカップをわざとらしく掲げ、
魔術師の男は席を立った。
男は消沈した様子のカノンを満足げに眺め、
軽快に靴音を立てて去っていった。
男が宿を出て行くまで、カノンは動かなかった。
テーブルの下で、拳を強く握ったまま。