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文字数 967文字

<リーン邸 正門前>
朝もやの残る森の中、

佇む屋敷の門前で

カノンはゆっくりと息を吸って、

清涼な空気をその冷たさと共に

肺へいっぱいに満たす。


透き通る刺激によって

意識を覚醒させながら、

荷物を持ったまま空を仰いだ。

うん、いい天気ね。
おう!
…………。
別にセシルは、
此処でゆっくり待ってても
よかったのよ?
ばーか、一人で行くくらいなら
二人のほうがいいに決まってんだろ!
ふふ、働き者じゃない。
へへっ、そーだろそーだろ!

遺跡でも村でも

大して活躍できなかったしな。

ここで点数稼いでおかねーと!

ちゃっかりしてるわね……。
セシルの現金さに
半分呆れながら感心しつつ、
未だに眠っているであろう、
イーリアスの部屋へと視線を向ける。
…………。
(振り回されそうな力を
 知らないうちに持たされて、
 周りとのギャップに苛まれて……
 それはあたしも同じ。)
(でも……あたしは、

 あの人のおかげで

 自分を見失わないで済んだ。

 だから今度は、

 あたしがそれをする番。)

意志を固め、

進むべき道へと顔を戻す。

……それじゃ、
行きましょうか
よしきた!

任せとけって!!

互いに声を掛け合うと、

二人はロージアへ向けて歩き出した。






待ってくれ!!
……………ッ、
呼びかけられ、足を止めて振り向く。

そこには、まだ静養中のイーリアスが、

息を切らしながら立っていた。

…………。
イーリアス!
なんで…………
………………、
俺も……行く
行く、って……
無理しないで寝てたほうが
駄目だ。

俺はあんたを守るといった。

だが……、俺はそれを、

一度も証明できていないんだ。

契約は絶対だ。

身体が悲鳴をあげていようと、

這ってでも、守らなければならない。

だから…………

あんたを守らせてくれ、

カノン。

へ…………。
…………。
へっ、これくらいで

息切れてる奴が

何言ってんだっての!

痛でっ
そんなんじゃ
お前の出番ねーからな!
せいぜいオレ様の足を引っ張るなよ!
イーリアスに軽く蹴りを入れてから
発破をかけると、ふいと
顔を背けて歩き出していった。
……やれやれ、

なんだかんだで

セシルも優しいわよね

セシルの背中を見守りながら、

イーリアスへと振り返る。

そこまで言うなら、

一緒に行くわよ。

あんまり無理はしないで、

あんたの力を貸してよね。

……それじゃ、

セシルに置いてかれちゃうし、

あたしたちも行きますか

…………。
…………あぁ。
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登場人物紹介

<カノン>


合理主義だがお人好しという なんとも損な性格をした剣士。
世の中諦めなければ 大体のことはなんとかなると思っている。

<イーリアス>


自身にかかっている呪いを解除する方法を求めて 放浪する暗殺者。
同時に、冷静沈着な魔術師で、周りに冷たい印象を与える。

<ニルス>


気が小さいが確かな腕を持つ魔巧師。
片付けが苦手だが、物の所在は全て把握している。

<セシル>


手先が器用なお調子者のトレジャーハンター。
アーティファクトや魔巧具の真贋を見抜く観察眼を持つ。

<フィラマリカ=D=リーン>

精霊のスクオーラのボス。
たおやかだが、何かと暴走しがち。

<パシュア>


腹の読めない隻眼の青年。
フィリカの世話役。

<ディーン>


人当たりがよく誠実な好青年。でもなぜか地味で目立たない。
女性を見たら話しかけずにはいられない性質の自称紳士。

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