22-2

文字数 1,266文字

<闘技場 観客席>

えーっと、

イーリアスどこにいるのかしら。

早く合流しないと……

……あ、あれね。

”あれ”というよりは

”これ”という距離だと思うが。


……ディーンはいないのか。

ディーンはもう

試合が始まるから。

運が悪い奴だな

へこんでたわねー。

大会の空気が掴めていない状態で

一番最初に戦うのは緊張するって。

なるほど。

セシルが見当たらないけど……

あいつは早速見回り?
あぁ。
そう。

じゃあ、隣もらうわね

イーリアスの隣の席に腰かけると、

暫し相手の様子を伺ってから

カノンは口を開いた。

えっと……、大丈夫?
何がだ?

魔力供給よ、魔力供給。

あたしの試合が始まったら

暫く合流できないと思って。

あぁ……、

それについては問題ない

あれ、そうなの?
これが荷物に入っていたからな。

おもむろに懐から小瓶を取り出して、

肩透かしをくらったカノンへ

イーリアスはそれを掲げて見せる。

容器の中には、桃色がかった赤の液体が容器いっぱいに入っていた。

あっ! それ……

アンブロシアじゃない!!

今日に魔巧具が見つかれば

この量で充分保つ。

流石はエルフの秘伝というだけはあるな。


……甘ったるくて飲むのはきついが。

そこがいいのに……。

俺も出来ることなら

これを取り入れたお前から

血液を戴くほうが

尚良いとは思っているが……

そもそも、その手間を省くための

意図だろうからな。

分けてやれないぞ。

はいはい。

とりあえず魔力の心配は

なさそうなのね。安心した。

懸念事項が一つ無くなり、安堵から胸をなでおろす。

程なくして、会場へどこからともなく女の声が響き渡り始めた。

『レディース&ジェントルメーン!

皆様大変お待たせいたしました!!』

『ついに始まりますよ、

第42回闘技大会inサベイク!!

栄えある第一試合の闘士4名の入場でーす!』

アナウンスを受けて、

周囲がどっと色めきだつ。

下方に位置するステージへと

視線を向けると、出場者の4人が姿を現していた。

……ついに試合開始、か。

ディーン大丈夫かしら

紳士淑女の

とくに淑女のみなさーん!

俺の活躍を、目に焼き付けていってくださいね!!

『爽やかなマスクで登場したのは

ディーン・オークウッド選手!

勝利を確信しているのでしょうか、

余裕の笑顔を見せています!』

…………。
落ち込んでいるんじゃなかったのか
いらぬ心配だったみたいね……。

『そして対するは……あーっと、

こちらの3人は、

本物のマスクを装着しての登場です!』

すごーい、

こんなに人がいるんだね~!

俺緊張してきたよ~

どこがだ……?

俺は手に人を書きすぎて

観客の人間を丸呑みしそうな勢いだぞ

ジェスター……

緊張しすぎで

何言ってるかわからないよ~

なーに、おめぇら

心配することはねぇ。

俺たちの作戦は完璧だからな!

やったー、さすがあにき!

(こっちに丸聞こえだけど、

大丈夫かなあ……。)

…………。

……あれ、たぶん

いつぞやの3人よね。

あいつ等、バレたらまずいんじゃ……。

……さぁな。

俺たちの知ったことじゃないだろう。

『それでは早速参りましょう!

第一試合……、開始です!!

そんなカノンたちの心配は他所に、

司会の言葉によって戦いの火蓋は切って落とされた。

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登場人物紹介

<カノン>


合理主義だがお人好しという なんとも損な性格をした剣士。
世の中諦めなければ 大体のことはなんとかなると思っている。

<イーリアス>


自身にかかっている呪いを解除する方法を求めて 放浪する暗殺者。
同時に、冷静沈着な魔術師で、周りに冷たい印象を与える。

<ニルス>


気が小さいが確かな腕を持つ魔巧師。
片付けが苦手だが、物の所在は全て把握している。

<セシル>


手先が器用なお調子者のトレジャーハンター。
アーティファクトや魔巧具の真贋を見抜く観察眼を持つ。

<フィラマリカ=D=リーン>

精霊のスクオーラのボス。
たおやかだが、何かと暴走しがち。

<パシュア>


腹の読めない隻眼の青年。
フィリカの世話役。

<ディーン>


人当たりがよく誠実な好青年。でもなぜか地味で目立たない。
女性を見たら話しかけずにはいられない性質の自称紳士。

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