22-1

文字数 1,234文字

<闘技場1F 廊下>

ふ~、行けそうなところは

大体行ったな!

(3Fの主催者のいる部屋は

後回しにするとして、

あとは1Fの部屋にどう入るか……。


しっかしこう、ぐるぐるぐるぐる

廊下を回ってると、

こないだの遺跡を思い出すなー。)

(……っと、やべ)

前方に長槍を携えた守衛を捉えると、

壁に身を寄せて様子をうかがい始める。

<中背の守衛>

…………。

守衛は扉の脇に立ち、人気のない廊下で

一点を見つめて厳かに佇んでいる。

おおよそ怠惰とは程遠い性質であると

セシルは判断した。

(あー、あいつ

どっか行かねーかなー。)

遠目から観察しながら、

勝手にも己の都合を胸の内で呟く。

すると、セシルとは反対側から来客があったのか、守衛は声をあげ始めた。

<中背の守衛>

ちょっときみ!

ここから先は立ち入り禁止だぞ!

試合は上の観客席で――

…………
…………ん?

明らかに言葉の途中に思えた守衛の声が

不自然にぴたりと止む。

不審に思ったセシルが守衛の下へ駆けつけると、

守衛は頬の筋肉を張ったまま口を開け、

瞼を閉じて静止していた。

(これは……、魔術か?

よくわかんねーけどチャンスだ!)

音もなく扉を開けて部屋の中へ侵入すると、

開けた空間に戸棚が並んでいる。

そしてそこには、セシルに背を向けるようにして

一人の少年が棚を物色していた。

…………。

(はっはーん、

廊下の守衛はコイツの仕業かー。

オレには気づいてないっぽいし……

そうだ!)

(……ここは外れか)

(ぽんぽん)
!?

右肩に手を置かれ、少年は

肩を大きく震わせながら振り返ると、

置かれたままの手の人差し指が、

柔らかな頬をぐいと押し上げた。

ははっ、引っかかった!

よー、こんな所で何やってんだ?

良い身なりしてるのに、

もしかして同業だったり?

……君には関係ない。

失せろ。

えー、そんなこと

言っていいのかよお坊ちゃんよぉー。


今にもデカい声出して

守衛さーん!不審者ですよー!って

通報してやってもいいんだぜ?

そ、それは君も同じだろう?!

さぁ、どーだろうな?

オレはどんな相手だろーと、

"くちさきさんぶん"で

言いくるめる自信があるぜ。

(それを言うなら"舌先三寸"だ。

こいつ、ただのバカか……。)

冷たい視線を向けたままの少年をよそに、

セシルは得意げに言葉を続ける。

ま、お前が何してるかは

実のところどーでもいいんだよな。

ただ、この闘技場を探索することが目的なら……

オレと手を組まねーか?

は?

まー聞けって。

この部屋は運よく鍵がかかってなかったから

お前だけでも侵入できたかもしれねーが、

他の部屋はどうだかわからない……

でもオレが居れば

この程度の施設の鍵ならたちまち開錠できる!

お前が守衛の気を逸らして、オレが鍵開け。

どうだ、完璧な布陣だろ?

はぁ……まぁ、そうかもな。

よっしゃ、決まりだな!

んじゃ、お互い協力し合うんだから

探り合いはナシでよろしく!

指を差しながら牽制し、

セシルも同様に別の戸棚を調査し始めた。

(変な奴に絡まれてしまったな……

子供の盗賊か、……まぁいいか。)

(用が済んだら、

消してしまえばいいだけだ)

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登場人物紹介

<カノン>


合理主義だがお人好しという なんとも損な性格をした剣士。
世の中諦めなければ 大体のことはなんとかなると思っている。

<イーリアス>


自身にかかっている呪いを解除する方法を求めて 放浪する暗殺者。
同時に、冷静沈着な魔術師で、周りに冷たい印象を与える。

<ニルス>


気が小さいが確かな腕を持つ魔巧師。
片付けが苦手だが、物の所在は全て把握している。

<セシル>


手先が器用なお調子者のトレジャーハンター。
アーティファクトや魔巧具の真贋を見抜く観察眼を持つ。

<フィラマリカ=D=リーン>

精霊のスクオーラのボス。
たおやかだが、何かと暴走しがち。

<パシュア>


腹の読めない隻眼の青年。
フィリカの世話役。

<ディーン>


人当たりがよく誠実な好青年。でもなぜか地味で目立たない。
女性を見たら話しかけずにはいられない性質の自称紳士。

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