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文字数 583文字

…………。
確かに、この崖から塔へ渡ることができるなら、
塔に侵入することも可能かもしれないぜ?

でもさ――――
どうやって
此処を越える気なんだよ?
崖の下を覗いていたセシルは
困惑した様子で、カノンへ視線を送った。
それもそのはずで、セシルの目からすれば、
常人の跳躍では不可能な距離だったからである。

普通に跳んだ場合の、3倍の長さはあるだろう。
セシルはそう考えた。
でも、
魔石の投擲は可能な距離よね
いやいや……だからそれができたところで、
そもそもカノンが塔に行けないと
意味ない作戦だったよな?!
大丈夫よ
大丈夫、って……
こんな距離、空でも飛べやしないと
まぁ見てなさいって
??

カノンが言葉を告げるや否や、

風が木々をざわめかせながら、

彼女へと風が収束し始める。

セシルが瞬きから瞼を開けたときには、

それまで彼女が纏っていなかったはずの、

白の衣を身に纏っていた。

な……ッ、
"なんだそれ?!"と大声で叫びかけたが、
すんでのところで手でおさえた。
セシルが呆気に取られている間に、
カノンはわずかに助走をつけてから、
崖から塔の天辺まで ひらりと渡って行っていた。
(魔巧具の類か?!
 もしかすると アーティファクトかも、
 いや……)
(……今はカノンの動きに集中しないとな)

石を投擲するだけの役回りとはいえ、
タイミングが重要だ。

合図を見逃さないよう、
夜の帳が落ち始めた景色の中で、
セシルは眼を凝らした。
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登場人物紹介

<カノン>


合理主義だがお人好しという なんとも損な性格をした剣士。
世の中諦めなければ 大体のことはなんとかなると思っている。

<イーリアス>


自身にかかっている呪いを解除する方法を求めて 放浪する暗殺者。
同時に、冷静沈着な魔術師で、周りに冷たい印象を与える。

<ニルス>


気が小さいが確かな腕を持つ魔巧師。
片付けが苦手だが、物の所在は全て把握している。

<セシル>


手先が器用なお調子者のトレジャーハンター。
アーティファクトや魔巧具の真贋を見抜く観察眼を持つ。

<フィラマリカ=D=リーン>

精霊のスクオーラのボス。
たおやかだが、何かと暴走しがち。

<パシュア>


腹の読めない隻眼の青年。
フィリカの世話役。

<ディーン>


人当たりがよく誠実な好青年。でもなぜか地味で目立たない。
女性を見たら話しかけずにはいられない性質の自称紳士。

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