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文字数 583文字
崖の下を覗いていたセシルは
困惑した様子で、カノンへ視線を送った。
それもそのはずで、セシルの目からすれば、
常人の跳躍では不可能な距離だったからである。
普通に跳んだ場合の、3倍の長さはあるだろう。
セシルはそう考えた。
カノンが言葉を告げるや否や、
風が木々をざわめかせながら、
彼女へと風が収束し始める。
セシルが瞬きから瞼を開けたときには、
それまで彼女が纏っていなかったはずの、
白の衣を身に纏っていた。
"なんだそれ?!"と大声で叫びかけたが、
すんでのところで手でおさえた。
セシルが呆気に取られている間に、
カノンはわずかに助走をつけてから、
崖から塔の天辺まで ひらりと渡って行っていた。
石を投擲するだけの役回りとはいえ、
タイミングが重要だ。
合図を見逃さないよう、
夜の帳が落ち始めた景色の中で、
セシルは眼を凝らした。