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文字数 1,967文字
ギエルから逃走していた男たちは、
仲間の一人が 残されていた男2人に
食って掛かっているのを見て、
慌てて止めに入った。
<細身の男>
へへっ、ちょっとお前らと組んで馬鹿やって
投獄されれば、金がもらえるって言うからよ……!
楽な仕事だったぜ
<ボサボサ髪の男>
あぁ、久しぶりの
酒と食い物と女は……最高だったなぁ!
吹き飛ばされた少年の元へ、
慌てて男が駆けていくと、
悠々と魔術師が広間に姿を現した。
ギエルが天井を仰ぐと、
琥珀色の混ざった ほの暗い空によって、
天窓の骨組の半分が、わずかに輪郭を浮かべていた。
少年へ追撃をかけようと、
手をかざした魔術師の首元に、
ナイフによる刀傷が、深く刻まれていた。
灯に照らされたギエルの刀傷は、
血を流すどころか、みるみる塞がっていく。
同時に、ギエルと対峙している
イーリアスの背後から悲鳴が上がった。
<細身の男>
な、なんひぇ、
おれの首から血ぎゃ……
ギエルと結託していたはずの男は、
みるみる青ざめ、床に音を立てて転がった。
もう一人の男は、恐慌状態に陥ったのだろう、
"こんなの聞いてない"
といった類の言葉を連呼し続けていた。
魔術師が徐に杖を掲げると、
杖の先端に飾られたオーブから
光が放たれ、一帯にいた人影に次々と踊りかかる。
イーリアスは咄嗟に身をかがめて回避したが――
突然の出来事で反応出来なかった者たちは、
光を一身に受け、その場に倒れていく。
男たちを横目に、イーリアスは
生成された光を躱し続けていた。
避け切れなかった光撃を脚に受け、体勢を崩す。
痺れで動けなくなっていたところへ、
ギエルが歩み寄ってきた。
魔術師は再び杖を振り上げたが、
チッと音が鳴った後、
彼の頬に朱の一文字が浮かんだ。
杖の石突部分から、
突如として先端の尖った刃が飛び出し、
イーリアスの右足を穿つ。
刃は石造りの床をも貫き、
彼はその場に縛り付けられた。
イーリアスの眼前へ、ギエルの手がかざされた。
影が翼をはためかせて、
上空からこの広間へ、
魔術師めがけて舞い降りたのだ。
鈍い衝突音が響いた後に
残ったものは、
静寂と、
光の天蓋の残光と、
白の羽衣で身を包んだ剣士だった。
剣士は玉の汗を浮かべながら、
気丈に笑ってみせた。
風穴を開けられた胸部を抑えながら、
ギエルはゆらゆらと立ち上がって
カノンを睨みつけた。
合点がいったのか、
ギエルは暫くの間 力なく笑っていたが、
咳き込んでそれが遮られると、
ぎこちなく、面をカノンへと向けた。
瀕死とは思えない声量で
言葉を吐いた魔術師は、
その直後に喀血し、背にあった壁へ
ずるずると身を預け、動かなかった。