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文字数 1,971文字
力におぼれた魔術師が
悪辣な魔術を用いて人心を操り、
大勢の罪なき民を、己の欲望の為に戦場へ向かわせたのだ。
戦いの渦に飲まれた人々は農具を手に取り、
あるいは剣を握りしめた。
しかし、魔術師の率いる軍勢は、
魔術による圧倒的な力と数によってそれらを蹂躙した。
人々は成す術なく、魔術師に平伏すしかなかったのだ。
ところが、一人の少女が現れてから状況は一変する。
彼女が出撃する戦いでは、 必ず彼女の陣営が勝利したのだ!
白き衣をはためかせ、敵を凪ぎ払う様は神話の戦乙女の如く。
人々は彼女を、畏敬と賛美を込めて、こう呼んだ。
『常勝の女神』と――――
剣を帯びた軽装の少女と、
大きな花びらのようなつば広帽とドレス姿が印象的な長耳の少女の二人が、
甘味を目の前にして喜ぶ、ごくごく普通の女子の会話。
<周りの客>
(なんだあいつ等……)通りかかった旅人や同様の客から、
二人は注目を一身に集めていた。
(あの大きい帽子を被った女の人……
えっ、耳が……長い?!)
<戸惑う町娘>
(え……、え…………?)
<眼光の鋭い男>
(女のくせに剣なんかさげてやがる、
戦士の真似事か……?)
剣を携えた少女カノンは、
ドーム型の黄色いデザートをスプーンですくい、口に運んだ。
二人は立ち上がり、辺りを見回して声の主を視界に捉えると、女性の口から炎が溢れ出し、身体ごと、一本の火柱を形成していた。
燃え盛る女を見た人々は、
その尋常ならざる光景に
たちまちパニックとなった。
悲鳴をあげて、散り散りになっていく。
文字通り火中にある女は、
声にならない叫びを上げ続けたまま石畳へのたうちまわるが、
火の勢いは収まるどころか、勢いを増していった。
しかしそれは、長耳のエルフ、フィリカの手で制止された。
そこには動きを止めた、焼け焦げた死体が転がっていた。
焦げ臭い死臭からか、それとも
責務を果たせなかった罪悪感からか、男は顔を歪める。
彼を気遣うように、同様の身なりをした若者が、男の脇まで走ってきた。
隊員であろう青年も倣って腰を折った。
ぞくぞくと同様の鎧を纏った騎士たちが現場へと駆け付ける。
彼らを横目に見ながら、
フィリカは近くの騎士二人へ向き直った。