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文字数 1,606文字
<せわしない男>
な、なぁ、ほんとにお前のいう事に従えば
オレ達は解放されるんだよな?!
イーリアスが声のした方へ首をめぐらせると、
興奮した様子の男一人と、困惑、疑念、不安など
様々な表情を浮かべている男たちが、
手を縛られたまま、まとまって座っていた。
<せわしない男>
指示に従い、
男はギエルの目の前まで歩いてきた。
<せわしない男>
跪いた男へ向かって、
ギエルは右腕を真一文字に斬ると、
男の頭がごとりと音を立てて床に転がっていた。
ギエルは恐怖に凍った罪人の男たちを尻目に、
床に転がった頭を拾うと、イーリアスの頭上に掲げた。
ぼたぼたと顔にかかる、
未だに熱い血潮から顔を背けながら、
イーリアスは吐き捨てるように言った。
突然激昂し、切断された男の頭ごと、
イーリアスの頭部を打ち据えた。
頑なに態度を変えないイーリアスを
ギエルは苦々しく見下ろしていたが、
ひらめいたとばかりに指を鳴らした。
一言漏らすと、イーリアスは血を啜り始めた。
頭が分かれた男の遺体と、
その血を得る魔術師、
それらを愉悦の表情で眺めるもう一人の魔術師――
倒錯した光景に、罪人の一人が口を抑えた。
そうしてギエルは血に塗れた空間を後にした。
血を啜る音と、足音と、たてつけの悪い扉の閉まる音が、静まった塔に気味悪く響いていた。