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文字数 1,176文字

手ぶらで帰るわけにもいかないカノンは、
話を聞くために、ニルスの家に上がらせてもらっていた。
ごめんなさい、散らかってて……。
いいのよ、慣れてるから。
あっ!待っててください!
今お茶を入れますから――うわぁっ!!
(盛大に転んだけど……、
 この辺に転がってるものも、
 作品の一部じゃないのかしら……。)
カノンはガラクタの山から掘り出された椅子
(脚がそろっていないのかグラグラする)に
座りながら、一風変わった空間を見渡していた。

(へ~、魔巧師って

 色んなものが作れるのね…)


丁寧に編まれた紐やベルト、ガラス瓶や石細工が
机や棚に無造作に並べられている。
きちんと陳列すれば、雑貨屋でも開けそうな出来である。
そうして目を楽しませている間に、
ニルスがお茶を持って戻ってきた。

本当にごめんなさい、
わざわざ僕の為にロージアに来てもらったのに…
だからこそ、今こうして話を聞いてるんでしょ。
それに…敬語は使わなくていいわよ。
歳も近いだろうし
あ、ありがとう……。
それで、どういった経緯で

魔巧具が盗まれたの?

えっと、親方に預けていた

魔巧具を受け取りに、今日の朝方に

魔巧師ギルドに行ったんだ。

それで、その帰り道でひったくられちゃって……

犯人の姿は見てないの?

ごめん、転んで慌ててる間に、

あっという間に人ごみに紛れられちゃって……。

少なくとも、すっごい大柄な人じゃなくて、

ぼくと同じくらいってことくらいしか……。

そう……。
ほんとにごめんね。
ぼく、昔っからとろくさくって……
そんなに落ち込まないで、
誰にだってツイてない時はあるから……
(なんだかすごく遠い目をしてる……)
そういえば、その魔巧具ってどんな魔巧具なの?
この部屋にあるみたいに、
雑貨みたいな見た目だったり……。
えーっと…なんていえばいいのかな、
赤いベルト…?が、
一つの丸い金具に輪っかに繋がった装身具…です。
へぇ……
(ベルトとは違うのかしら……)
そして、金具が魔力の楔になって、
装備者の魔力を抑える…そういう効果の魔巧具だったんだ
なっ……、強化じゃなくて、弱体?

そんなことが可能なの?!

それが可能なんだよ!

本来魔術師の力を増幅させる為の魔巧具で反対の効果を得るなんて魔術師には全然受けないしでもだからこそリーンさんの御眼鏡にも叶ったんだと思うんだけれど金具に純正の金をベルト部分にガーネットを使ってるんだようするに敢えて魔力伝道のいい素材を使うことで魔力を魔巧具に流してしまうって寸法なんだ!だから

ご、ごめんなさい、

薀蓄(うんちく)はまた今度にお願いしてもいい?

もちろん!
…………。

(魔術師を弱体化させる

 魔巧具があるなんて…。

 もしかしたら

 ただの強盗じゃなくて、

 誰かがあたし達を出し抜いた、

 という線もあるかもしれない……)


(そしてなによりも――)

(その魔巧具があれば、あの魔術師に対抗できる切り札になるかもしれない!!)

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登場人物紹介

<カノン>


合理主義だがお人好しという なんとも損な性格をした剣士。
世の中諦めなければ 大体のことはなんとかなると思っている。

<イーリアス>


自身にかかっている呪いを解除する方法を求めて 放浪する暗殺者。
同時に、冷静沈着な魔術師で、周りに冷たい印象を与える。

<ニルス>


気が小さいが確かな腕を持つ魔巧師。
片付けが苦手だが、物の所在は全て把握している。

<セシル>


手先が器用なお調子者のトレジャーハンター。
アーティファクトや魔巧具の真贋を見抜く観察眼を持つ。

<フィラマリカ=D=リーン>

精霊のスクオーラのボス。
たおやかだが、何かと暴走しがち。

<パシュア>


腹の読めない隻眼の青年。
フィリカの世話役。

<ディーン>


人当たりがよく誠実な好青年。でもなぜか地味で目立たない。
女性を見たら話しかけずにはいられない性質の自称紳士。

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