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文字数 1,216文字

<リーン邸 執務室>
邪魔するぜ、お嬢。

パシュア……

その扉の開き方は、

行儀がよろしくなくってよ。

悪いが……生憎、

手がふさがっててな……っと。

フィリカの注意を聞き流しながら、

開けた時と同様に足を使って扉を閉める。

トレーに載せていた

焼きたてで香りの良いパンケーキを、

書類でごった返しているデスク横の

テーブルに置いた。


もう片方の手に

載っていたティーセットも

テーブルへ移動させることで手を空けると、

懐から一通の手紙を取り出し、

フィリカの眼前へ差し出した。

これは?

レイモンドっていう、

騎士さんからだそうだ。

まぁ!

手紙を受け取り、

騎士団章が印璽された蝋を

薄手のナイフで剥がすと、

中身の便箋へと目を通す。

誰だっけか、こいつ。

たしか……すがる思いで、

常勝の女神……カノンに

依頼したいって言ってきた……

はい。炎の柘榴石を

回収したときの依頼人ですわ。

…………。
お嬢?
これは……一大事ですわ!

ーーーーーーーー











<闘技場 外れにて>

さて、と。


……ん?

連絡をとるために

石へ再び視線を移すと、

呼びかけていないはずなのに、

それは独りでに光を放っていた。


首を傾げながらも、

相手の応答を待つ手間が省けたと

思いながらカノンは口を開く。

もしもーし、フィリカ。

今大丈夫?

えぇ、もちろん。

どうかしましたか、カノン?

取りに行った魔巧具なんだけど、

ちょっと手違いがあってね……

ニルスの手元じゃなくて、

オルコット商工会にあるの。

だから今、その人が寄るって

言ってたらしい、

ロージアの西にある

闘技場に寄り道してるけど……

これが回収できたら、また戻るわ。

……ふむ。

つまりカノンは今、

闘技場にいると?

そういうこと。

……なんて、

タイミングがいいのでしょう!

え?
石からパンと手を叩く音が聞こえてくると、

興奮した様子でフィリカの声を伝える石はちかちかと明滅を続ける。

実はですねカノン。

私、丁度貴女達に連絡を

入れようとしていたところでしたの。


そして……、目的地はそう、

貴女が今いる闘技場ですわ。

……アーティファクト絡み?

結果的には……

そうなるのでしょうか。

アークライトの人間が、

闘技場に来ています。

!!

魔術師の名門中の名門!

家系はみな美形の銀髪!!

周りが羨むエリート貴族!!!


……そんな彼らが、

ルダリアからロージアへ、

10日も馬車に揺られ、

そしてさらに闘技場へご足労ですよ?

彼らが何の目的もなしに、

泥臭い戦いを見に来るとは思えませんわ。

……つまり、

アークライトの動向を探りつつ、

アーティファクトがあるようなら

それの回収、ってところかしら。

その通りです。
…………。

あのときはただの偶然かと

思って深く考えて

いませんでしたが、

もしかしたら……

ニルスさんの魔巧具を、

本当に狙っているのかもしれません。


それらの可能性も加味して、

任務にあたってください。

わかった。

みんなにも伝えておく。

……いつも急な任務ばかりで

すみません、カノン。

お願いしますわね。

申し訳なさそうに弱弱しく光を放ってから、

石はしんと静まった。

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登場人物紹介

<カノン>


合理主義だがお人好しという なんとも損な性格をした剣士。
世の中諦めなければ 大体のことはなんとかなると思っている。

<イーリアス>


自身にかかっている呪いを解除する方法を求めて 放浪する暗殺者。
同時に、冷静沈着な魔術師で、周りに冷たい印象を与える。

<ニルス>


気が小さいが確かな腕を持つ魔巧師。
片付けが苦手だが、物の所在は全て把握している。

<セシル>


手先が器用なお調子者のトレジャーハンター。
アーティファクトや魔巧具の真贋を見抜く観察眼を持つ。

<フィラマリカ=D=リーン>

精霊のスクオーラのボス。
たおやかだが、何かと暴走しがち。

<パシュア>


腹の読めない隻眼の青年。
フィリカの世話役。

<ディーン>


人当たりがよく誠実な好青年。でもなぜか地味で目立たない。
女性を見たら話しかけずにはいられない性質の自称紳士。

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