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文字数 1,216文字
<リーン邸 執務室>
フィリカの注意を聞き流しながら、
開けた時と同様に足を使って扉を閉める。
トレーに載せていた
焼きたてで香りの良いパンケーキを、
書類でごった返しているデスク横の
テーブルに置いた。
もう片方の手に
載っていたティーセットも
テーブルへ移動させることで手を空けると、
懐から一通の手紙を取り出し、
フィリカの眼前へ差し出した。
手紙を受け取り、
騎士団章が印璽された蝋を
薄手のナイフで剥がすと、
中身の便箋へと目を通す。
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<闘技場 外れにて>
連絡をとるために
石へ再び視線を移すと、
呼びかけていないはずなのに、
それは独りでに光を放っていた。
首を傾げながらも、
相手の応答を待つ手間が省けたと
思いながらカノンは口を開く。
石からパンと手を叩く音が聞こえてくると、
興奮した様子でフィリカの声を伝える石はちかちかと明滅を続ける。
魔術師の名門中の名門!
家系はみな美形の銀髪!!
周りが羨むエリート貴族!!!
……そんな彼らが、
ルダリアからロージアへ、
10日も馬車に揺られ、
そしてさらに闘技場へご足労ですよ?
彼らが何の目的もなしに、
泥臭い戦いを見に来るとは思えませんわ。
申し訳なさそうに弱弱しく光を放ってから、
石はしんと静まった。