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文字数 1,315文字

<闘技場前 開けた広場にて>


格調高い馬車より二人の人影が降りると、

ぐるりと辺りを見渡している。

お~! ここが闘技場かぁ。

思ったより立派な施設なんだねぇ。

えぇ、そうでございますね。

ナザン様。

もっと人がいると思ったけど……

みんなもう中に居るのかぁ。

……間に合うでしょうか。

も~、固いなぁランダは。

ぼくたちって端から見たら

大して歳変わらないんだし、

もっと気軽にナザンでいいよぉ。

そういうわけには……

だいじょ~ぶだいじょ~ぶ。

しくじったらダメだから

緊張するのはわかってるけど、

このゴブレットを所定の位置に置くだけの

簡単なお仕事だからさ!

…………。
…………。

ランダの肩をぽんぽんと叩きながら

少年は金の意匠を凝らした杯を取り出す。

刹那、弾ませていた手で相手を引っ張り、

耳元に口を寄せた。

……ランダぁ、

曲がりなりにも四月天を務めるんだから、

今回はちゃーんと、お仕事してよね?

……はい。

もちろんです、ナザン様。

口元は変わらず笑みを浮かべているものの、

冷ややかな抑揚の言葉に、

固唾を呑み込みたい衝動に駆られながら、

ランダは静かに杯を受け取った。










<同時刻、闘技場 観客席>
…………。

……ん、

おー、いたいた。

試合の行われる舞台を見下ろすようにして

階段状に並べられた座席を見回し、

目的の人物を捉えると、

セシルは行く先の人をすらりと避けて

イーリアスの座る席までやってきた。

……なんだ、お前はお前の仕事を

しに行ったんじゃなかったのか。

ばーか。いくら呼び石があるからって、

司令塔の居場所を知らない隊員なんて

三流もいいとこだろーが

もっともだな。

……なぁ、

本当によかったのかよ。

何がだ

カノンだよカノン。

お前、あんなに試合に出させるのを

嫌がってた割には、

随分とあっさり折れたじゃん。

強い主張をもったあいつを

説得するのは無駄だろう。

まー、たしかにそうかもな。
……言いたいことは何だ?

いまいち要領を得ない言葉に、

さっさと要点を聞いてしまいたいのか、

そう間もなく、イーリアスは言葉を返した。

相手の意図を察したのか、

わざとらしくため息をついてから、セシルは言葉を続ける。

この際だから言っておくけどさぁ

オレはお前を信用してねー。

魔術師ってのは

"色にだらしのねー、傲慢で狡猾で最低"ってのが

オレ達一般人からの決まり文句だからな。


てめーがカノンに取り入ったのも、

どーせ禄でもないことをしたからなんだろ?

随分な言われようだが、

魔術師に対しての見解としては

間違っていないだろうな。

それでもオレがこうして

素直に言う事きいてやるのは……、

カノンの白い羽衣の正体を見極める為だ。

決しておめーのためじゃねーからな!

勘違いすんじゃねーぞ!!

? あ、あぁ。

それだっていうのに、

てめーはオレを出し抜いて

カノンの試合を見てるんだから……

オレの分までちゃんと見ておけよな!!


やばくなったらすぐ呼べよ!!

セシルは相手を指さしながら早口でまくしたてると、

言いたいことをすべて言い終えたのか、

言うが否か、座席脇の通路を駆け抜けていった。

……なんだったんだ。

恨み言が続くだろうと予想していたイーリアスは

セシルの行動に首を傾げたが、

自分なりに意図を噛み砕くよう努力しながら、

思索を巡らせることに再び集中し始めた。

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登場人物紹介

<カノン>


合理主義だがお人好しという なんとも損な性格をした剣士。
世の中諦めなければ 大体のことはなんとかなると思っている。

<イーリアス>


自身にかかっている呪いを解除する方法を求めて 放浪する暗殺者。
同時に、冷静沈着な魔術師で、周りに冷たい印象を与える。

<ニルス>


気が小さいが確かな腕を持つ魔巧師。
片付けが苦手だが、物の所在は全て把握している。

<セシル>


手先が器用なお調子者のトレジャーハンター。
アーティファクトや魔巧具の真贋を見抜く観察眼を持つ。

<フィラマリカ=D=リーン>

精霊のスクオーラのボス。
たおやかだが、何かと暴走しがち。

<パシュア>


腹の読めない隻眼の青年。
フィリカの世話役。

<ディーン>


人当たりがよく誠実な好青年。でもなぜか地味で目立たない。
女性を見たら話しかけずにはいられない性質の自称紳士。

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