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文字数 1,315文字
<闘技場前 開けた広場にて>
格調高い馬車より二人の人影が降りると、
ぐるりと辺りを見渡している。
ランダの肩をぽんぽんと叩きながら
少年は金の意匠を凝らした杯を取り出す。
刹那、弾ませていた手で相手を引っ張り、
耳元に口を寄せた。
口元は変わらず笑みを浮かべているものの、
冷ややかな抑揚の言葉に、
固唾を呑み込みたい衝動に駆られながら、
ランダは静かに杯を受け取った。
<同時刻、闘技場 観客席>
試合の行われる舞台を見下ろすようにして
階段状に並べられた座席を見回し、
目的の人物を捉えると、
セシルは行く先の人をすらりと避けて
イーリアスの座る席までやってきた。
いまいち要領を得ない言葉に、
さっさと要点を聞いてしまいたいのか、
そう間もなく、イーリアスは言葉を返した。
相手の意図を察したのか、
わざとらしくため息をついてから、セシルは言葉を続ける。
セシルは相手を指さしながら早口でまくしたてると、
言いたいことをすべて言い終えたのか、
言うが否か、座席脇の通路を駆け抜けていった。
恨み言が続くだろうと予想していたイーリアスは
セシルの行動に首を傾げたが、
自分なりに意図を噛み砕くよう努力しながら、
思索を巡らせることに再び集中し始めた。