第15話 シーソー
文字数 1,781文字
僕が目覚めたのは、白い部屋だった。蛍光灯が白々と部屋を照らし楽屋を思わせるが、机などの家具はなく、先ず目についたのは自分の顔の真上にある板だった。
天井に柱で固定されていてその先に尖った杭が見える。自分の上に落ちてこないのは、その板の下がっているところ、つまりシーソーの原理で自分と年の近い少年が座っていたからだった。
少年はとても学生とは思えない陰鬱な顔で俯いていたが、僕が目覚めたと気づくと、シーソーが僕の上に落ちないように板の先端に繋がったロープを、僕のすぐ側の床から飛び出している金属の輪にしゃがみ込んで固定した。先ほどとは打って変わって溌剌とした表情で、ノスタルジックな優しい表情を浮かべる。
このときになってはじめて身動きを取ったところ、同じく床にロープで何重にも巻かれて固定されていることが分かった。
「お前誰。これは何だよ」
どうあがいてもロープは解けなかった。おまけに寸分のずれも許さないように几帳面に巻かれている。
「まだ死ぬには早いと思うけど。どうして君はサイトにいたのかな」
質問には答えず少年は独り言のように問いかけた。サイトと聞いて、すぐにあのサイトだと思い当たる。他人には秘密にしておきたい事項だ。慌てふためいたものの遅かったと自覚した。今更ながら何とか打開策はないかと思い巡らせた。
「そう。君は自ら名乗り出たんだよ。自殺志願者として。あのサイトは俺が作ったんじゃないけど、あそこには本当に死にたがっている人は意外といなかったよ。君以外はね」
「確かに僕は一緒に死んでくれる仲間を探してた。だけど、一緒にだ。こんな、僕一人だけが死ぬようなやり方は嫌だ」
何とも情けない声だと我ながら思って相手の出方に目を見張った。少年は、僕から目を離すとシーソーの固定しているロープを外そうとする。
「待て。それは何だ。まさかそれで殺そうってことじゃ」
顔色一つ変えずに少年は説明した。
「シーソーだよ。昔はみんなやったことがあるんじゃない? あの下に人の顔があったらって思うとちょっと怖いよね。でも、どっちかっていうとねずみ捕りみたいなものだよ。逆シーソーさ、支点は天井にあるから。」
「待てよ、あれは僕の上に落ちてくるのか」
泣き喚くような悲痛な声が出た。
「ちょうど君の顔の上にね。たぶん人相が分からないぐらい潰れるんじゃないかな。あんまり鋭利な杭じゃないから叩き潰す感じになるよ」
「自分のやってることが分かってるのか? あんまりだ。僕は死にたいけど、こんな死に方って」
「じゃあどんな死に方?」
喘ぎながら叫んだ。こんなつもりじゃなかった。
「車で練炭で中毒死するつもりだった。それよりももっといい方法があったかもしれない。できるだけ苦しまず。だから書き込みしたんだ。もっといい方法を知ってる人がいるだろうって」
少年は意味深な微笑を浮かべて側に立った。顔の横に足が来る。
「それは他人任せさ。結局自殺っていうのは自分で自分を殺さないといけない。それが君にはできない」
「ああ、そうだったかもしれない。けど、死が怖くない奴なんているか? 僕は怖くて怖くてたまらない。生きるのも死ぬのもだ! お前なんかが分かるか。いちいち刺さる痛みが。
僕は他の連中と違う。他の奴が耐えられるようなことが耐えられない。何から何までだ。明日、苦手な授業があると思うと眠れなくなる。
そんな単純なことさえ僕には死でもって解決したくなるほど辛い。明日が来なければいいんだ。明日なんてなくなれば」
自分で自分の発言に触発されて泣き面になってしまう、涙を見せまいと堪えた。
「言ってたねサイトで。いじめられたことよりもその方が辛いって」
「お前に何が分かるんだよ。あのサイトを見て同情でもしたってのか?」
「人として生きるのに疲れたって本当?」
「うるさい。人のことに口出しするな」
「どうして? だって俺は匿名は守ってるよ。ネット上だと思って話してよ」
「うるさいだまれ」
「俺が思うに、人としての感情があるだけいいことだと思うよ」
「お前にはなさそうだしな。こんなばかげた映画のまねごとなんかしてるくらいだ」
少年はにわかに困った表情を見せてから何事もなかったように笑い出した。
「何がおかしいんだよ。とにかく解け、一体ここはどこなんだ」
「そろそろ時間だ。リョウが着く前に決着つけたいしね」
「リョウ?」
天井に柱で固定されていてその先に尖った杭が見える。自分の上に落ちてこないのは、その板の下がっているところ、つまりシーソーの原理で自分と年の近い少年が座っていたからだった。
少年はとても学生とは思えない陰鬱な顔で俯いていたが、僕が目覚めたと気づくと、シーソーが僕の上に落ちないように板の先端に繋がったロープを、僕のすぐ側の床から飛び出している金属の輪にしゃがみ込んで固定した。先ほどとは打って変わって溌剌とした表情で、ノスタルジックな優しい表情を浮かべる。
このときになってはじめて身動きを取ったところ、同じく床にロープで何重にも巻かれて固定されていることが分かった。
「お前誰。これは何だよ」
どうあがいてもロープは解けなかった。おまけに寸分のずれも許さないように几帳面に巻かれている。
「まだ死ぬには早いと思うけど。どうして君はサイトにいたのかな」
質問には答えず少年は独り言のように問いかけた。サイトと聞いて、すぐにあのサイトだと思い当たる。他人には秘密にしておきたい事項だ。慌てふためいたものの遅かったと自覚した。今更ながら何とか打開策はないかと思い巡らせた。
「そう。君は自ら名乗り出たんだよ。自殺志願者として。あのサイトは俺が作ったんじゃないけど、あそこには本当に死にたがっている人は意外といなかったよ。君以外はね」
「確かに僕は一緒に死んでくれる仲間を探してた。だけど、一緒にだ。こんな、僕一人だけが死ぬようなやり方は嫌だ」
何とも情けない声だと我ながら思って相手の出方に目を見張った。少年は、僕から目を離すとシーソーの固定しているロープを外そうとする。
「待て。それは何だ。まさかそれで殺そうってことじゃ」
顔色一つ変えずに少年は説明した。
「シーソーだよ。昔はみんなやったことがあるんじゃない? あの下に人の顔があったらって思うとちょっと怖いよね。でも、どっちかっていうとねずみ捕りみたいなものだよ。逆シーソーさ、支点は天井にあるから。」
「待てよ、あれは僕の上に落ちてくるのか」
泣き喚くような悲痛な声が出た。
「ちょうど君の顔の上にね。たぶん人相が分からないぐらい潰れるんじゃないかな。あんまり鋭利な杭じゃないから叩き潰す感じになるよ」
「自分のやってることが分かってるのか? あんまりだ。僕は死にたいけど、こんな死に方って」
「じゃあどんな死に方?」
喘ぎながら叫んだ。こんなつもりじゃなかった。
「車で練炭で中毒死するつもりだった。それよりももっといい方法があったかもしれない。できるだけ苦しまず。だから書き込みしたんだ。もっといい方法を知ってる人がいるだろうって」
少年は意味深な微笑を浮かべて側に立った。顔の横に足が来る。
「それは他人任せさ。結局自殺っていうのは自分で自分を殺さないといけない。それが君にはできない」
「ああ、そうだったかもしれない。けど、死が怖くない奴なんているか? 僕は怖くて怖くてたまらない。生きるのも死ぬのもだ! お前なんかが分かるか。いちいち刺さる痛みが。
僕は他の連中と違う。他の奴が耐えられるようなことが耐えられない。何から何までだ。明日、苦手な授業があると思うと眠れなくなる。
そんな単純なことさえ僕には死でもって解決したくなるほど辛い。明日が来なければいいんだ。明日なんてなくなれば」
自分で自分の発言に触発されて泣き面になってしまう、涙を見せまいと堪えた。
「言ってたねサイトで。いじめられたことよりもその方が辛いって」
「お前に何が分かるんだよ。あのサイトを見て同情でもしたってのか?」
「人として生きるのに疲れたって本当?」
「うるさい。人のことに口出しするな」
「どうして? だって俺は匿名は守ってるよ。ネット上だと思って話してよ」
「うるさいだまれ」
「俺が思うに、人としての感情があるだけいいことだと思うよ」
「お前にはなさそうだしな。こんなばかげた映画のまねごとなんかしてるくらいだ」
少年はにわかに困った表情を見せてから何事もなかったように笑い出した。
「何がおかしいんだよ。とにかく解け、一体ここはどこなんだ」
「そろそろ時間だ。リョウが着く前に決着つけたいしね」
「リョウ?」