第65話 通り魔
文字数 1,804文字
都心は大雪に見舞われ異常気象が珍しくない今日でさえあまり、驚かなくなっていたが、今日の雪はまさに異常だった。足がずぶずぶ埋まるぐらいの積雪。
通信学校の面々とカラオケやボーリングを楽しんでいた零士にはあまり影響のないことだったが、さすがにショッピングになると刺さるような寒さを痛感した。
チェーンを巻いていないほとんどの車がのろのろと徐行して行くが、中には既にタイヤが雪に埋まって身動きが取れなくなっている車もいる。
「こんな日にあっっちゃこっちゃ遊び回ってんのうちらぐらいやで、ほんま」
「いいじゃん。だって、最近全然遊んでなかったじゃん」
零士はずっと悪七を警戒して、友達とも全然遊ばなくなっていた。悪七の屋敷にも行った零士だが、屋敷にはスーツを着たガードマンだけで、ミカエリが見当たらなかった。
それに一日張り込んでみたが、人の出入りもなかった。嵐の前の静けさというのを実行しているようだ。
「ほら見てよ。凍ってるよ」
「あほか、やめときーや。転ぶで」
凍結した道路の上で押し合っていると一人が、騒ぎを聞きつけた。
「向こうが騒がしいみたいだな」
雪が十センチも積っているので足をもつれさせながら昼間のサラリーマンが走ってくる。
「誰かあいつを止めろ。通り魔だ!」
繁華街のど真ん中での堂々と男子学生が刃を振りかざしている。すでに一人刺されている。被害者と同じ制服を着ているので、ひょっとしたら通り魔ではなくて、同じ学校の生徒を刺したのかもしれない。
手にした刃物には血がべっとりついていてはじめは気づかなかったが、よく見るとその刃は、つららのような氷だった。
「出よったで、また関係ない人間巻き込んでんねんな」
友達に呼び止められるのも気にせず零士は男子学生の方へ走って行った。
「お前ら、早よ、逃げい! あいつはきっとうちに用があるんや」
零士にはこの少年からライに辿りつける自信があった。少年は未だ、動悸が激しく何かを成し遂げたような、何かに怯えるような歪んだ目をして肩で息をしていた。
周囲が敵に一変した瞬間から、目は激しく動き回り、次にどうするべきかも、分からず刃を振り回していた。もう後には引けないと苛ついた唇が、誰彼構わずに、悪態に似た脅し文句を投げている。
零士はあえて少年から見えるように踏み込んだ。そのとたん少年は目を見開いて驚きを見せたものの唇を固く結んでさっきまでとは違う恐ろしい剣幕で早口に言った。
「標零士だな。もう時間がない」
「ライの差し金やな」
相手は話も聞かず刃をかざし走ってきた。零士は横に飛びのいた。アスファルトの上をきらりと氷が走った。一瞬にして足場は氷上と化し見事に滑って転んだ。
「んなあほな」
仰向けに転んだ。降り下ろされた少年の刃。握る腕を足で蹴り上げる。少年もバランスを崩して足を僅かに滑らせたが反対の腕で、がつりと膝を殴られた。ハンマーでも食らったかのようにやたら骨に響いた。少年の右手は氷づけになっている。
その握りしめた手の中には携帯。ライのミカエリの姿は近くにないが明らかに携帯を介して冷気が吹きさらしてくる。氷が少年の腕を飲み込みはじめている。当人も顔をしかめて早くかたをつけようと上にのしかかる。
「あんさんも命蝕まれとるやんか」
刃を持つ腕を捕まえようとして指が切られた。次に氷づけの右フックがきた。むせた。が、負けじと服をつかんで引き寄せて頭突きをお見舞いする。少年が一瞬ひるんだ隙に今度はこちらが押し倒して氷の刃を奪い取った。
「観念しいや」
なおも少年はもがいているのは氷の浸食が腕から肩まで達したからだ。零士は携帯を持つ指の部分だけでも溶かせないかと真奈美に見せる。真奈美の顔のパズルから機械音が発せられる。音で破壊する気だ。だが少年の腕にまでひびが入った。絶叫する少年。
「何やってんねん!」
真奈美の顔のパズルがそろい真奈美は冷ややかに告げる。
「芯まで凍ってるよ」
そういった拍子に少年の腕はガラガラと散らばって崩れた。断面は尚も凍って不思議なことに血は飛び散らない。だが肉片はガラスみたいに、てらてら輝いて、自分の身に起きたことの恐怖と激痛に少年は絶叫とともに意識を失った。
「誰か救急車や」
零士の声に見ていた取り巻きは一瞬気後れしたまま携帯をかけはじめた。その中の何人かは零士を異様な目で見ていた。さっきまで暴れていたのは零士だと言わんばかりに。
通信学校の面々とカラオケやボーリングを楽しんでいた零士にはあまり影響のないことだったが、さすがにショッピングになると刺さるような寒さを痛感した。
チェーンを巻いていないほとんどの車がのろのろと徐行して行くが、中には既にタイヤが雪に埋まって身動きが取れなくなっている車もいる。
「こんな日にあっっちゃこっちゃ遊び回ってんのうちらぐらいやで、ほんま」
「いいじゃん。だって、最近全然遊んでなかったじゃん」
零士はずっと悪七を警戒して、友達とも全然遊ばなくなっていた。悪七の屋敷にも行った零士だが、屋敷にはスーツを着たガードマンだけで、ミカエリが見当たらなかった。
それに一日張り込んでみたが、人の出入りもなかった。嵐の前の静けさというのを実行しているようだ。
「ほら見てよ。凍ってるよ」
「あほか、やめときーや。転ぶで」
凍結した道路の上で押し合っていると一人が、騒ぎを聞きつけた。
「向こうが騒がしいみたいだな」
雪が十センチも積っているので足をもつれさせながら昼間のサラリーマンが走ってくる。
「誰かあいつを止めろ。通り魔だ!」
繁華街のど真ん中での堂々と男子学生が刃を振りかざしている。すでに一人刺されている。被害者と同じ制服を着ているので、ひょっとしたら通り魔ではなくて、同じ学校の生徒を刺したのかもしれない。
手にした刃物には血がべっとりついていてはじめは気づかなかったが、よく見るとその刃は、つららのような氷だった。
「出よったで、また関係ない人間巻き込んでんねんな」
友達に呼び止められるのも気にせず零士は男子学生の方へ走って行った。
「お前ら、早よ、逃げい! あいつはきっとうちに用があるんや」
零士にはこの少年からライに辿りつける自信があった。少年は未だ、動悸が激しく何かを成し遂げたような、何かに怯えるような歪んだ目をして肩で息をしていた。
周囲が敵に一変した瞬間から、目は激しく動き回り、次にどうするべきかも、分からず刃を振り回していた。もう後には引けないと苛ついた唇が、誰彼構わずに、悪態に似た脅し文句を投げている。
零士はあえて少年から見えるように踏み込んだ。そのとたん少年は目を見開いて驚きを見せたものの唇を固く結んでさっきまでとは違う恐ろしい剣幕で早口に言った。
「標零士だな。もう時間がない」
「ライの差し金やな」
相手は話も聞かず刃をかざし走ってきた。零士は横に飛びのいた。アスファルトの上をきらりと氷が走った。一瞬にして足場は氷上と化し見事に滑って転んだ。
「んなあほな」
仰向けに転んだ。降り下ろされた少年の刃。握る腕を足で蹴り上げる。少年もバランスを崩して足を僅かに滑らせたが反対の腕で、がつりと膝を殴られた。ハンマーでも食らったかのようにやたら骨に響いた。少年の右手は氷づけになっている。
その握りしめた手の中には携帯。ライのミカエリの姿は近くにないが明らかに携帯を介して冷気が吹きさらしてくる。氷が少年の腕を飲み込みはじめている。当人も顔をしかめて早くかたをつけようと上にのしかかる。
「あんさんも命蝕まれとるやんか」
刃を持つ腕を捕まえようとして指が切られた。次に氷づけの右フックがきた。むせた。が、負けじと服をつかんで引き寄せて頭突きをお見舞いする。少年が一瞬ひるんだ隙に今度はこちらが押し倒して氷の刃を奪い取った。
「観念しいや」
なおも少年はもがいているのは氷の浸食が腕から肩まで達したからだ。零士は携帯を持つ指の部分だけでも溶かせないかと真奈美に見せる。真奈美の顔のパズルから機械音が発せられる。音で破壊する気だ。だが少年の腕にまでひびが入った。絶叫する少年。
「何やってんねん!」
真奈美の顔のパズルがそろい真奈美は冷ややかに告げる。
「芯まで凍ってるよ」
そういった拍子に少年の腕はガラガラと散らばって崩れた。断面は尚も凍って不思議なことに血は飛び散らない。だが肉片はガラスみたいに、てらてら輝いて、自分の身に起きたことの恐怖と激痛に少年は絶叫とともに意識を失った。
「誰か救急車や」
零士の声に見ていた取り巻きは一瞬気後れしたまま携帯をかけはじめた。その中の何人かは零士を異様な目で見ていた。さっきまで暴れていたのは零士だと言わんばかりに。