第20話 ピアノ線

文字数 1,134文字

「ばっかみたい。死にたい奴はさっさと死ねばいいのよ。自分でできないから他人と馴れ合うなんてかっこ悪いって思わない? 普通」

 その瞬間、川口の目が鈍く光った。歯噛みこそしないが無言の闘争が起こったのをひいらは垣間見た気がした。


「ほんと、どうしてくれんのよ。あたしたちまで巻き込まれたのよ」

 ふたばがイライラとスマートフォンをタッチしていると、突然スマートフォンからノックが聞こえた。

「ちょっと見せて」


「何よ」

 スマートフォンの画面の中のドアが開いた。

「そのスマホ、もしかしてハッキングされてるんじゃない? 遠隔操作できるって聞いたことあるよ」


 そのとき、本当にドアがどんどん鳴った。蹴り開かれた勢いで開いた。少年が、前のめりにつんのめりながら膝をつく。我ながら驚いた顔で部屋に人がいるのを見渡すと泣きべそをかきながら声を震わせた。

「た、助けてーな隣の部屋に来てーや」


 頭はくしゃくしゃで、ひどいくせ毛。眠たそうな瞼。少しふっくらした体つき。服もよれよれで、どことなく頼りなげな雰囲気の少年だ。


 やはりというべきか、同じ年ぐらいだ。学生ばかりが意図的に集められている。ただ少年は少しばかり老けて見えるふしがあった。第一印象はかなり悪かった。だが、必死の形相にひいらも何かがあったことを瞬時に悟った。


 悲鳴が聞こえてきた。隣の部屋に飛び込むと、同じような白い部屋に血が塗り広がっていた。

 天井からシーソーのようなものが伸び、顔面を潰された少年の死体がある。こちらはもう手遅れだ。


 叫んでいるのは、壁を背に身動きが取れなくなっている少年だ。身体に巻きつけられているのはピアノ線で、それが次第にぎりぎりと少年の身体に食い込んでいく。


 腕、足はもちろん背中や腹からも血が流れ出ている。既に袖はちぎれていて、最悪、五体がばらばらに切断されてしまう。


「手伝ってーや」

 全員が硬直してしまったが、わなわなと震えて駆け込んで来た少年を筆頭に、何とか指を這わす。ひいらも我に返って駆け寄ろうとしたが、壁の少年の隣にあるものを見て留まった。


 フーと同じ生物だ。ピアノ線を握ってきつく縛りつけているのは女性のような身体の生物だ。全身が水色に輝いていて、霊のような透明感。下半身が蛇で、顔はのっぺらぼうだが、鼻筋はあって、髪もある。


「フーあれを止めて」

 フーはすぐさま女性のミカエリに体当たりしたが、片手で止められた。まるで見えない壁でもあるかのようにフーは反動で吹き飛んだ。


「フー!」

 思わず叫んでしまって、少年が必死の形相で怒鳴った。

「俺一人やったら無理やて」

 ふたばはと言えば完全にすくみあがってしまって、その場から動かない。くせ毛の少年の指は無理にピアノ線に食い下がるから血まみれだった。

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