第26話 ゲーマー
文字数 1,613文字
歩きながらヤマが他にも手紙がないかとせがんだので、全ての手紙を読み返した。朝月も興味を示した。
「ふーん、手紙は何通かあるんだ」
「これがルールブックやな。っていっても、この文、ほとんど煽りやん。内輪もめさせる気満々やん」
ヤマが小声で言って、最後尾をぶっきらぼうに歩く執行に目をやった。
廊下の突き当たりには開けた空間があった。極彩色の部屋だ。天井は赤と黒のチェック柄、壁は原色。ピンクや白、緑。それが複雑に入り組んで迷路になっている。
「そろそろや思たわ。ゲームってのは単調じゃ飽きるねん。一本道ってのはRPGでもアクションでも嫌われんねん。FPSみたいな感じやったらええのに。いや、冗談や。うちはオープンワールドの方が好きやねんよ」
ヤマは少し興奮気味に言った。
「でもあれやな。世界観はええけど、不思議の国のアリスっぽいな。どうせやるなら殺伐としたまんまでもよかってんけど。ホラーテイストで、さびた廊下、古びた洋館とか。某ゲームやな」
「主にオンライン?」
朝月レンが目の下のくまにしわを寄せて微笑む。
「今はそやな。でも、うちは何でもすんで。駄作と言われたやつも、ほかのシリーズと比べて改善点あるやろ!
ってつっこみ入れたりできるし。宣伝されてなくても、隠れた名作もあるしやなぁ。レースゲームでもオープンワールドでフリーランできるのがあるやん。あんなんもええな」
「ゲーマーなんだね」
ふたばが朝月に寄り添った。
「ねえ、あんたって誰かに似てるって言われない? ほら、モデルの誰だっけな」
「ちょっと、そんな話してる場合じゃないでしょ」
「何よ、焼いてんの?」
確かに朝月はよく見るとイケメンだった。ふたばが朝月に猛アタックをかけはじめた。朝月も別に気を悪くすることもなく話を聞いている。傍目から見ればもう立派なカップルの成立だ。
迷路は形だけだった。極彩色のおかげで色の位置を覚えておけば一度通った道も分かる。ただこの空間が悪趣味なポップな部屋だと分かったのはもう少し後だ。ここも墓場に成り得るからだ。
「あ、スマホが動いた」
先頭を突き進んでいたふたばと朝月の二人が分かれ道で立ち止まる。前かがみに覆いかぶさってスマホは見せてくれない。それでいて、ちらりとこちらを盗み見るて、ちょっと口元をほころばせる。
「危険だから何人かで分かれた方がいいんじゃないかな」
朝月が振り返ったので目が合う。ふたばは私の顔を見るなり目を細めて口を捻じ曲げる。それから気取った顔で微笑む。
「リーダーはあたしだから」
「別に俺は構わないけど。でもこれは信じていいのかな」
「何があったの?」
ふたばはそっぽを向くが、朝月は画面に右に曲がれと矢印が出たと説明した。明らかに罠の臭いがする。
「おかしいよね。犯人は俺達を逃がしたいのかな。そんなことないよね」
そのとき、ふたばの様子が変わった。またスマホにかじりついている。新たな指示だろうか。
「ごめん。ちょっと待ってて」
「離れたら危ないよ」
「一分だけ。ごめん」
朝月の制止も聞かずそそくさと左に曲がる。嫌な予感がする。朝月は追おうとしない。呆れたというより、スマホに面白いものでもあるんだろうかという顔で見送っている。
「止めないと」
「ほっときなよ。彼女、依存症でしょ」
「え?」
腕を組んだ朝月は、もう見えなくなったふたばの残像に語るように言う。
「今ちょっと覗いたけど、スマホに指示があったんじゃないよ。今のはメールだった。男の名前だったから彼氏じゃないかな」
「それはそれで大問題よ。メールが届くのなら。助けを呼べるかも」
「そうだけど。どうかな。これだけの規模で誘拐しておいて、スマホが使えるっていうのも不自然だよ。きっと手は打ってあると思うんだけど」
「いいの? もうあの人、角を曲がったみたいだけど」
川口がぼそっと呟く。
「仲良しごっこかよ。くだらねぇ」
執行が勝手に右に曲がる。みんなばらばらに動いたら危険なのに。
「ふーん、手紙は何通かあるんだ」
「これがルールブックやな。っていっても、この文、ほとんど煽りやん。内輪もめさせる気満々やん」
ヤマが小声で言って、最後尾をぶっきらぼうに歩く執行に目をやった。
廊下の突き当たりには開けた空間があった。極彩色の部屋だ。天井は赤と黒のチェック柄、壁は原色。ピンクや白、緑。それが複雑に入り組んで迷路になっている。
「そろそろや思たわ。ゲームってのは単調じゃ飽きるねん。一本道ってのはRPGでもアクションでも嫌われんねん。FPSみたいな感じやったらええのに。いや、冗談や。うちはオープンワールドの方が好きやねんよ」
ヤマは少し興奮気味に言った。
「でもあれやな。世界観はええけど、不思議の国のアリスっぽいな。どうせやるなら殺伐としたまんまでもよかってんけど。ホラーテイストで、さびた廊下、古びた洋館とか。某ゲームやな」
「主にオンライン?」
朝月レンが目の下のくまにしわを寄せて微笑む。
「今はそやな。でも、うちは何でもすんで。駄作と言われたやつも、ほかのシリーズと比べて改善点あるやろ!
ってつっこみ入れたりできるし。宣伝されてなくても、隠れた名作もあるしやなぁ。レースゲームでもオープンワールドでフリーランできるのがあるやん。あんなんもええな」
「ゲーマーなんだね」
ふたばが朝月に寄り添った。
「ねえ、あんたって誰かに似てるって言われない? ほら、モデルの誰だっけな」
「ちょっと、そんな話してる場合じゃないでしょ」
「何よ、焼いてんの?」
確かに朝月はよく見るとイケメンだった。ふたばが朝月に猛アタックをかけはじめた。朝月も別に気を悪くすることもなく話を聞いている。傍目から見ればもう立派なカップルの成立だ。
迷路は形だけだった。極彩色のおかげで色の位置を覚えておけば一度通った道も分かる。ただこの空間が悪趣味なポップな部屋だと分かったのはもう少し後だ。ここも墓場に成り得るからだ。
「あ、スマホが動いた」
先頭を突き進んでいたふたばと朝月の二人が分かれ道で立ち止まる。前かがみに覆いかぶさってスマホは見せてくれない。それでいて、ちらりとこちらを盗み見るて、ちょっと口元をほころばせる。
「危険だから何人かで分かれた方がいいんじゃないかな」
朝月が振り返ったので目が合う。ふたばは私の顔を見るなり目を細めて口を捻じ曲げる。それから気取った顔で微笑む。
「リーダーはあたしだから」
「別に俺は構わないけど。でもこれは信じていいのかな」
「何があったの?」
ふたばはそっぽを向くが、朝月は画面に右に曲がれと矢印が出たと説明した。明らかに罠の臭いがする。
「おかしいよね。犯人は俺達を逃がしたいのかな。そんなことないよね」
そのとき、ふたばの様子が変わった。またスマホにかじりついている。新たな指示だろうか。
「ごめん。ちょっと待ってて」
「離れたら危ないよ」
「一分だけ。ごめん」
朝月の制止も聞かずそそくさと左に曲がる。嫌な予感がする。朝月は追おうとしない。呆れたというより、スマホに面白いものでもあるんだろうかという顔で見送っている。
「止めないと」
「ほっときなよ。彼女、依存症でしょ」
「え?」
腕を組んだ朝月は、もう見えなくなったふたばの残像に語るように言う。
「今ちょっと覗いたけど、スマホに指示があったんじゃないよ。今のはメールだった。男の名前だったから彼氏じゃないかな」
「それはそれで大問題よ。メールが届くのなら。助けを呼べるかも」
「そうだけど。どうかな。これだけの規模で誘拐しておいて、スマホが使えるっていうのも不自然だよ。きっと手は打ってあると思うんだけど」
「いいの? もうあの人、角を曲がったみたいだけど」
川口がぼそっと呟く。
「仲良しごっこかよ。くだらねぇ」
執行が勝手に右に曲がる。みんなばらばらに動いたら危険なのに。