第19話 自殺する予定だった

文字数 976文字

 手紙の下にスマートフォンが隠れていた。今の手紙の内容だとふたばの携帯に何らかの指示が送られてくるらしい。そもそもゲームとは何なのことだか、ひいらには理解できなかった。


 ここにいる全員がそうだろう。文脈は不穏な流れで、ひいらの脳に刺激を送っている。すぐにピンときた言葉があったからだ。


《君の背後のものを使う権利がある》という部分。明らかにこの手紙を書いた主はフーのことを知っている。フーが見える人物はこの前出会ったばかりの狩集リョウぐらいしかいない。


 まさか、私達を誘拐したのは狩集リョウ? そういえば、ゲームがどうとか言っていたような。


「ちょっとあたしのスマホに何してくれたのよ。画面固まってんじゃん」

 スマホの画面にはドアの絵が描かれている。それはこの部屋の扉とそっくりだ。


「それ、指示なんじゃない?」

「嘘。一方的に送りつけてくるわけ? 電話もかけられないし。あーもー、あたしのスマホ」

 何度も指で画面をスライドさせようとしたりタッチしたりするが反応はない。


 ひいらはこの部屋のドアの方を見て、もう一度開けようとしたが外から鍵がかかっているのは変わらない。

「ねぇ注射器って。川口君に聞けば分かるって」


 川口はさっきから俯き加減であまり私達に関わりたくなさそうにしていた。そっと歩み寄っても半歩下がるオーラが出ている。

「頼むから教えて。私達ずっと出られないかもしれないんだよ」

 川口は目を反らしながら、言葉は床に落ちるように零れた。


「あれはきっと毒か、安楽死の薬だと思う」

「はぁ。何であんたがそんなこと分かんのよ」

 ひいらはふたばとの間に立ってゆっくり川口に尋ねた。川口はたじろいでいた。

「それは。たぶん、僕が使う分だと思ったから」


 顔を覗き込むのはひいらにも躊躇われた。川口は泣いていないが、今にも消え入りそうな声で呟いたからだ。しばらくひいらは言葉に困った。後ろではふたばがさっきからスマートフォンの復旧に手こずっている。電源すら落ちないようだ。画面は、以前ドアを示したままだ。

「練炭自殺する予定だった」


「オフ会で?」

「そう。予定が変わったんだと思った。準備は掲示板の管理人がするって言ってたから。まあ、一方的に殺されるだけだとしても構わないけど」

 平然と、明日の天気の話をするみたいに自分の命を軽く話した川口に、ふたばがそっぽを向いて腕を組む。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み