第16話 カウントダウン

文字数 603文字

 少年は突然ナイフを首に押しつけた。思わずのけぞった。少年の瞳が爛々と輝いているのを見て冷や汗をかいた。片手には、ほどけかけているロープ。


「今から一分以内に自殺して。もちろん手はつかえない。ずっとこうして首にナイフを押さえつけとくから。君はちょっと上体を起こして喉をこするなり押し込むなりして死ぬ努力をしてもらう。


 自力で死ねずに時間切れになったら俺がロープを持つ手を離すけど、そのときには上のシーソーの先の杭が顔に刺さるから」


「そんなばかな話があるか! いいか、僕はこんなわけの分からない死に方ごめんだ」


「知ったことじゃない。じゃ、今からスタート」

「ほんと映画の見すぎだな。もっと映画の方がリアルってもんだ。僕は何が悲しくってここにいるか。お前みたいな奴に殺されるためじゃないんだ」

「残り三十秒」


「解け! 自分でやりたいようにやる」

「わがままだね。残り十秒」


 もがいても、その場からは動けないがときどき喉に触れたナイフで血が滲む。しかし身体を押し上げるだけのことに恐怖する。紙で切ったぐらいの浅い傷しかできない。血は垂れているが、こすったり押しつけるのは論外だ。仕方なく睨みつける。


「三、二」

 少年のカウントダウン。目が天井のシーソーに引き寄せられる。痛みはどれほどだろうと思案するのは既に遅かった。最後の「一」は木霊するように耳に焼きついた。ロープが解ける。蛇が素早く脇を通り抜けるような音が聞こえた。
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