第33話 意図的
文字数 1,251文字
川口は自殺掲示板の流れそのものを話してくれた。自分でも情けなくなってきたのかうなだれている。こんなこと聞き出したのはやはりまずかったかな。
「不毛な会話ばかりしてる掲示板なんて見なければいいんだけど。一度書き込んだらその先、誰がどういう書き込みをしてるのか気になってつい見ちゃうんだ。
だから僕らが集うのはひとえに悲しみのためばかりじゃない。傷の舐めあいでもないし、傷つけ合いかもしれない。でもいつか誰か救ってくれるんじゃないかとか。いつか、自分と同じ境遇の人が同情してくれるんじゃないかとか思ったりする。
実際は煽る人も多いけど。私も同じ経験ありますって言われたいんだ。君だけに教えてあげる」
川口は私にだけ見えるようにメモを見せてくれた。特に朝月レンには見られたくないみたいだった。今日、自殺するために書くつもりだった遺書の切れ端だった。
手荷物は全て犯人に没収されているのに、ふたばのスマホや、川口のメモはわざと持たしたままにしているところも、意図的だと思った。
死ぬ前に今から死にますと添えて書き込むつもりだったとか。人前で話すのは恥ずかしいことなのに掲示板の上だと平気で書き込めるのだそうだ。匿名だからこそ書けるのであって声には到底出せない。
私に教えてくれたということはそれだけ葛藤の後に伝えたい言葉だったんだろう。見せてくれた後も顔を真っ赤にして情けなさそうにうなだれて後悔している。
川口の恐る恐る見つめていた目が、辛そうに歪む。自嘲気味にはにかんだところで、朝月が様子を見に来た。
「終わったかな? こっちも助けてよ。ヤマ君と話すと疲れるよ。意外に政治にも詳しくて驚いたけど」
私と川口だけで話す環境を作ってくれたことはありがたかった。朝月もいいところがある。
「そうでもあらへんで。全部ネット上やったら早く分かるってだけや」
「君は俺が天皇暗殺考えてるってこと気にしてないみたいだね?」
「そんなん、別にうちは何とも思うてへんで」
「本当にそうかな。君だって、象徴的なものをぶち壊すことに興味がないわけじゃないんでしょ。口には出さないだけで」
突然、声を潜めた朝月に見ていた私も悪寒を感じた。面と向って言われたヤマは一歩後ずさったほどだ。しばらく見つめ合う二人、ヤマは唇をわななかせて呟くのが精一杯だった。
「あんさん、ほんまの目的はそれやないやろ」
どういう意味だろう。朝月は答えない。
「そうとも言えるね。象徴を一つ消し去るってことをやってみたいとは思うけど、それで日本が混乱しようが、どうだっていいよ。それより気になるのはそういうつまらないことを実際実行に移せるのかってこと。
日本で海外ほどテロが起きないのは何故かってこと。俺がそのきっかけを起こせる人間になれるかどうか。でも、しばらくは安心してよ。俺達はここでこうして捕まってるし、俺は無差別に襲ったりしない」
あまりに危険な発言にぞっとした、思わず距離を離したくなるほどだが、朝月自らが数歩先を歩き始めた。足取りもどこか軽やかだった。
「不毛な会話ばかりしてる掲示板なんて見なければいいんだけど。一度書き込んだらその先、誰がどういう書き込みをしてるのか気になってつい見ちゃうんだ。
だから僕らが集うのはひとえに悲しみのためばかりじゃない。傷の舐めあいでもないし、傷つけ合いかもしれない。でもいつか誰か救ってくれるんじゃないかとか。いつか、自分と同じ境遇の人が同情してくれるんじゃないかとか思ったりする。
実際は煽る人も多いけど。私も同じ経験ありますって言われたいんだ。君だけに教えてあげる」
川口は私にだけ見えるようにメモを見せてくれた。特に朝月レンには見られたくないみたいだった。今日、自殺するために書くつもりだった遺書の切れ端だった。
手荷物は全て犯人に没収されているのに、ふたばのスマホや、川口のメモはわざと持たしたままにしているところも、意図的だと思った。
死ぬ前に今から死にますと添えて書き込むつもりだったとか。人前で話すのは恥ずかしいことなのに掲示板の上だと平気で書き込めるのだそうだ。匿名だからこそ書けるのであって声には到底出せない。
私に教えてくれたということはそれだけ葛藤の後に伝えたい言葉だったんだろう。見せてくれた後も顔を真っ赤にして情けなさそうにうなだれて後悔している。
川口の恐る恐る見つめていた目が、辛そうに歪む。自嘲気味にはにかんだところで、朝月が様子を見に来た。
「終わったかな? こっちも助けてよ。ヤマ君と話すと疲れるよ。意外に政治にも詳しくて驚いたけど」
私と川口だけで話す環境を作ってくれたことはありがたかった。朝月もいいところがある。
「そうでもあらへんで。全部ネット上やったら早く分かるってだけや」
「君は俺が天皇暗殺考えてるってこと気にしてないみたいだね?」
「そんなん、別にうちは何とも思うてへんで」
「本当にそうかな。君だって、象徴的なものをぶち壊すことに興味がないわけじゃないんでしょ。口には出さないだけで」
突然、声を潜めた朝月に見ていた私も悪寒を感じた。面と向って言われたヤマは一歩後ずさったほどだ。しばらく見つめ合う二人、ヤマは唇をわななかせて呟くのが精一杯だった。
「あんさん、ほんまの目的はそれやないやろ」
どういう意味だろう。朝月は答えない。
「そうとも言えるね。象徴を一つ消し去るってことをやってみたいとは思うけど、それで日本が混乱しようが、どうだっていいよ。それより気になるのはそういうつまらないことを実際実行に移せるのかってこと。
日本で海外ほどテロが起きないのは何故かってこと。俺がそのきっかけを起こせる人間になれるかどうか。でも、しばらくは安心してよ。俺達はここでこうして捕まってるし、俺は無差別に襲ったりしない」
あまりに危険な発言にぞっとした、思わず距離を離したくなるほどだが、朝月自らが数歩先を歩き始めた。足取りもどこか軽やかだった。