第66話 ゲーム名ice edge

文字数 1,094文字

 少年の腕を自分の上着で巻いてやっていると救急車を呼んでいるはずの男性がうろたえた声を出した。男性の携帯を握りしめる手が氷づけになっている。顔面、蒼白になりながら、それでもあり得ないことだと男性は冷静を保とうとして状況を話し出した。


「救急車を呼んだはずなんだが、知らない少年に繋がって。急に俺のやましいことを色々と暴露されたんだが。君を殺すか自分が死ぬか選べと言われた」

 男性は自分の腕の氷が指から腕へ厚く、這い上がってていくのを感じて、手をがりがりと振り払ったが、氷は取れない。


「き、君は確かニュースで見たことある。君は奇跡の生還を果たしたばかりなんだから、殺す気はない。だが、何とかしてくれ!」


 男性の異変に気づいた女性が代わりに救急車を呼びますと名乗り出た。

「あかん。それはやめとき」


 腕の粉砕した少年の脈が無くなった。息もしていない。少年を巻いた上着が完全に凍りついた。少年の顔も氷で覆われていく。

 携帯を使うのは諦め公衆電話を探そうとしていた女性の携帯が鳴りだす。

「こんなときに何よ」


 今このタイミングで知り合いから電話のようだ。不吉な予感しかしない。零士が危ぶむ中、この女性だけでなく、交差点であらゆる人々の携帯電話がいっせいに鳴りだした。驚いて立ち止まる人、急ぎ足で歩きながら自分の携帯と他人の携帯を見比べる人。


 早くも電話に出た人。一人、また一人、電話に出ていく。何を聞いたのか、不審な顔を浮かべている人々が、一斉に叫び出す。電話に出た人々の携帯を握る手が凍っていく。


 街は突然パニックになった。氷をはがそうと躍起になる人。信号が変わっても人々は自分の身に起こったことを取り消したくてそこから動かない。車のクラクション、いや、車の運転手の多くも凍った手を振り回したりして歩道に下りてくる。


 携帯を持っていない人の方がまれだ。凍てつく痛みにみな、顔をしかめて病院まで乗せてくれと血相を変えた人たちでタクシー乗り場がごった返した。


「ねえもしかして標零士って君のこと。これ」

 先ほどの女性はコールする電話に出ずにいると、メールが届いたといって、それを零士に見せた。ゲーム名ice edgeと書かれている。



《君たちには氷の刃が渡された。それで標零士を殺せ。刺殺が一番美しいからね。できなければ自分が死ぬ。タイムリミットは一時間。もちろんそれで誰かを殺してもいい。

 自分が憎い人間でも思い浮かべて手当たり次第に殺してもいいし、今隣にいる人間を試しに殺してみるのもいい。そうすれば、一人殺すとタイムリミットは五分伸びる。逃げようとしても無駄だから。自殺も禁止。早くしないと全身凍るよ》
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