第55話 帰ってこない気がした

文字数 594文字

 カムが狙ったのはボーカルだ。ボーカルの足元で止まり。ヒラメ状態から身体を楕円形に戻す。守衛と共にボーカルが説教されながら連れていかれなければ危なかった。


 俺は厳しくカムを叱って肩に連れ戻した。耳元でカムがどろどろの口でウソツキと呟いた。


 文化祭どころでなくなった俺は家に帰って馬鹿みたいに寝た。どこまでも眠りほうけた。悪い夢を見た気がして起きてみたがまた寝てやった。今度はふわふわした夢でカラオケで馬鹿騒ぎした夢を見た。ここ何年か行ってないと思って目が覚めた。


 まだ夕陽が沈んだばかりの時刻で部屋の前に夕飯が置かれる音がした。手近にあったテレビのリモコンをドアに投げつけた。何の返事もない。足音もさせず親は去ったと見える。


 何もすることがないので宿題と予習をする。悪七のことはできるだけ考えないようにした。逮捕イコール有罪ではない。まだ取り調べやら拘置所に移す手続きがあるだけだろう。


 悪七が取り調べで余計なことを言うはずがない。寧ろ警察をからかっているかもしれないと想像してみて俺は忍び笑いを漏らした。そのうち爆笑する。あいつならやりかねない。ただ一つ心配なのはいつ帰ってくるかだ。


 悪七が帰って来ない気がした。普通の心理かもしれないが悪七の場合消えるときは文字通りこの世から消えてしまいそうで怖い。このことに思い当たった俺はシャーペンを置いた。一日ぐらい宿題を放棄しても問題はない。

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