第75話 本当に事故だった

文字数 1,719文字

「あんさん、じゃあなんで、うちを殺したんな? 脱線事故は百人も無関係な人間が死んでんやで。生前の零士は間違いなくあんさんの親友やってんで? それをあんさんは、姉さんがおらんなったら、余計大事にせなあかんかったんとちゃうんか?」


「そんなのいらない。って言いたいところだけど。俺を置いていったのは零士のほうだよ」

 語尾を荒げてもライには何も響かないらしい。より一層落ち着き払った声で、微笑む。


「あれは、本当に事故だったんだ」

「は?」


「俺のミカエリは置き石をした。毎日毎日。同じ時間、同じ踏切。最初、俺は自分でも何が望みでミカエリがそんなことをするのか分からなかった。ふと、零士の通る道だと気づいたけど。でも、それでも置き石が原因で脱線したりなんかしなかった」


 零士は、言葉を失くして、いつもの嘘かどうかを見極めようと目を細めた。


「でも、最近の電車は置き石を弾き飛ばすようになってて、置き石対策されてるんだよ。だから、あの脱線事故が起きたときも、本当にシステム系統のトラブルだった。俺は、零士に置いていかれた。姉もいないのに、零士もいなくなった」


 零士はかぶりをふって、どちらが正しいのか判断しなければならなかった。つまり、今までのライの行動全てが偽りだったというのか。


「罪悪感は残ったよ。置き石をしていたのは事実だし。でも、俺は本当に何もしていないけど、零士を殺していたのは俺かもしれないと思うと、やっぱり俺が殺したことに変わりないんじゃないかって。だから、リョウにも俺が脱線事故を起こしたと思わせてる。それでいいんだ。対して差はないでしょ」


「なんでそない大事なこと早よう言わんねや。うちかて、あんさんがそないなことあったって知ってたら、ちょっとは何か変わってたかもしれん。あんさんは、だって最初から人殺しやなかったってことやないか」


 熱く語りすぎた。ライの冷笑が戻ってくる。もしかして、完全にはめられたかもしれない。いや、そうじゃない。脱線事故が本当に事故だとしても、もうライは改心するつもりもないらしい。それどころか、今はもう過去なんてどうだっていいに違いない。


「姉さんも零士もいなくなったんだから仕方ないでしょ。もうあと、俺に残った道は紛らわせることだけ。自殺なんて、姉と同じ方法は絶対に嫌だったし。


 だから、俺はミカエリがたくさん欲しかった。何もかも失って空になるのが嫌だった。ほら、脱線事故の人たちも、デスゲームで死んだ参加者もいっぱいいるんだよ」


 ライの周りに一人、また一人とほの暗い影が現れた。黒い影はみな、目がぽっかり開いて、人としての形でゆらめいている。口は縦に長く開かれ叫んでいる風だ。その中に、川口流、朝月レン、剛力ふたば、執行孝次が混じっている。

この人たち全て、ミカエリになったとでも言うのか。


「輪千真奈美がミカエリにならなかったから、おかしいなと思ってたんだ。それに、脱線事故のとき、零士が怨念を残さなかったこと。成仏ってあるんだねやっぱり。だけど、姉がこうしてミカエリとして呼びもどした。姉は優しいから、自分の身体を犠牲にしてでも君を現世に呼び戻したかったんだと思う」


「もしそうやとしたら、それは、うちがライを止めるためにとちゃうか? あんさんの姉さんはあんさんがミカエリをこんなふうに、ろくでもない使い方してるって知ってたんや」


 ライの周りのミカエリが解散して、各々きびすを返して歩いて空間に消えていく。


「なんで、そんな言い方しかできないの? 俺はミカエリと契約を結んでるだけだよ。リョウだって、そうだ。リョウは猫をミカエリが殺したと思ってるけど、違う。リョウが猫を殺して、生まれたのがリョウのカムだよ。みんなこうやって結んでるんだ。


 善見ひいらだって、フーっていうミカエリを公園で拾ったって言ってたけど、とんでもないことだよね。きっと捨て犬でも成仏しきれずにうろついてたんだ。君だってその浅ましい存在なんだよ。姉さんに寄生する害虫さ」


「せやかて、正しい使い方はいくらでもできるはずや」

 ライはせせら笑った。その頃にはライの周りのミカエリは狐一人になっていた。

「なら見せてよ」

「まず、あんさんを黙らせてからやな」
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