第24話 復讐掲示板
文字数 1,438文字
シーソーの部屋の奥にあった黒い扉は、執行がまた体当たりしていた。やはり鍵がかかっているらしい。諦めて戻って来た。
「見てんじゃねぇよ」
フーに開けることができるだろうか。フーの可能性は無限大だ。だけど、私は知っている。フーはどうでもいいことには手を貸してくれるが、私が本当に願っていることには代償を求める。
「フー開けてきて」
それでも、私はここから出たい。みんなのためだ。私が出たいのか。それとも誰かのために開けるのか。扉の前に立ち尽くす。
ドアをフーがすり抜ける。軽い金属の回転音、扉が開いた音がする。腕に走る痛み。腕が切られた。ああ、もう何年ぶりだろう、こんなことになるのは。
「え、開いたの?」
いつの間に来ていたのか、ふたばが傍に駆け寄ったが、薄気味悪いものを感じて口をすぼめた。川口も目を丸くしている。説明のつかないまま、中に入った。一滴落ちた、血を見られたかもしれない。
冷気が流れ込んできた。三つ目の部屋は真っ暗だった。だから懐中電灯がいるのか。足を踏み入れてすぐに立ち止まった。霜だ。懐中電灯を中に突き出すと、氷の剣山が見えた。
天井にはつらら、床からは針の山のように氷が突き出ている。漆黒の部屋にきらきら光っている。そのコントラストの中にあえぐ一人の少年が浮かび上がった。どこをどう進んでいいのか分からず腕や足が氷に切られて出血している。
「そこを動かないで」
少年は乱れた呼吸をして立ち止まった。過呼吸のように息を弾ませている。出血のほかにどこか悪いところがありそうだ。
少年は震えて、後ずさった、その拍子にまた氷の剣山を踏みつける。叫んだと思ったらバランスを崩し、後ろに倒れる。肩を剣山が貫通する。悶絶する声と、何度も助けを呼ぶ声が部屋に反響する。ひいらは慎重に黒の部屋に分け入った。
「じっとしてて」
少年に辿り着くのは一苦労だった。懐中電灯で照らし出されていても足場のほとんどが氷だ。滑っただけで肩を壁から伸びる氷でひっかいた。
少年の肩に刺さった氷はつかんでも折れない。抱き起こす形で引き抜いた。飛び出た鮮血で周囲の氷が染まる。目の下にくまのある少年は落ち着きのない声で言った。
「助けて、早くここから出たい」
「うん」
次の部屋に向う扉があった。この建物は一直線に繋がっているのかもしれない。
「また手紙があったよ」
川口が氷の剣山に吊るされていた箱を持ってきた。今回は手紙だけだが、内容はこの少年に向けられたもののようだ。
《朝月レンは暗闇に慣れなければ暗殺はほど遠い》
「今度は何の掲示板のオフ会なのよ」
ふたばがスマホに目を落としながら興味なさそうに独り言を言った。この、状況で自分のスマホのことばかり気にしているのか。
少年の名は朝月レン。オフ会の予定はなかったが、あちこちの掲示板を荒らしているのだそうだ。それよりも早くこの部屋から出たいということなので慌てて次の部屋に向った。
ちょうどそのとき、懐中電灯の電池が切れた。もうお役ご免といったところか。鍵はかかっていなかった。視界が開けると白い廊下に出た。一息ついた朝月は腰を下ろして深く息をする。ヤマが萌えキャラのハンカチをそっと差し出してきて、朝月の肩の傷にあてがった。
「暗所恐怖症なんだ。皮肉なものだよ。復讐掲示板でちょっと煽ってやっただけなのに」
暗所恐怖症だから、ずっと落ち着きがなかったのか。それに、今度は復讐掲示板が出て来た。犯人はネット上で私たちを選んでいる。でも必ずしもそうじゃない。
「見てんじゃねぇよ」
フーに開けることができるだろうか。フーの可能性は無限大だ。だけど、私は知っている。フーはどうでもいいことには手を貸してくれるが、私が本当に願っていることには代償を求める。
「フー開けてきて」
それでも、私はここから出たい。みんなのためだ。私が出たいのか。それとも誰かのために開けるのか。扉の前に立ち尽くす。
ドアをフーがすり抜ける。軽い金属の回転音、扉が開いた音がする。腕に走る痛み。腕が切られた。ああ、もう何年ぶりだろう、こんなことになるのは。
「え、開いたの?」
いつの間に来ていたのか、ふたばが傍に駆け寄ったが、薄気味悪いものを感じて口をすぼめた。川口も目を丸くしている。説明のつかないまま、中に入った。一滴落ちた、血を見られたかもしれない。
冷気が流れ込んできた。三つ目の部屋は真っ暗だった。だから懐中電灯がいるのか。足を踏み入れてすぐに立ち止まった。霜だ。懐中電灯を中に突き出すと、氷の剣山が見えた。
天井にはつらら、床からは針の山のように氷が突き出ている。漆黒の部屋にきらきら光っている。そのコントラストの中にあえぐ一人の少年が浮かび上がった。どこをどう進んでいいのか分からず腕や足が氷に切られて出血している。
「そこを動かないで」
少年は乱れた呼吸をして立ち止まった。過呼吸のように息を弾ませている。出血のほかにどこか悪いところがありそうだ。
少年は震えて、後ずさった、その拍子にまた氷の剣山を踏みつける。叫んだと思ったらバランスを崩し、後ろに倒れる。肩を剣山が貫通する。悶絶する声と、何度も助けを呼ぶ声が部屋に反響する。ひいらは慎重に黒の部屋に分け入った。
「じっとしてて」
少年に辿り着くのは一苦労だった。懐中電灯で照らし出されていても足場のほとんどが氷だ。滑っただけで肩を壁から伸びる氷でひっかいた。
少年の肩に刺さった氷はつかんでも折れない。抱き起こす形で引き抜いた。飛び出た鮮血で周囲の氷が染まる。目の下にくまのある少年は落ち着きのない声で言った。
「助けて、早くここから出たい」
「うん」
次の部屋に向う扉があった。この建物は一直線に繋がっているのかもしれない。
「また手紙があったよ」
川口が氷の剣山に吊るされていた箱を持ってきた。今回は手紙だけだが、内容はこの少年に向けられたもののようだ。
《朝月レンは暗闇に慣れなければ暗殺はほど遠い》
「今度は何の掲示板のオフ会なのよ」
ふたばがスマホに目を落としながら興味なさそうに独り言を言った。この、状況で自分のスマホのことばかり気にしているのか。
少年の名は朝月レン。オフ会の予定はなかったが、あちこちの掲示板を荒らしているのだそうだ。それよりも早くこの部屋から出たいということなので慌てて次の部屋に向った。
ちょうどそのとき、懐中電灯の電池が切れた。もうお役ご免といったところか。鍵はかかっていなかった。視界が開けると白い廊下に出た。一息ついた朝月は腰を下ろして深く息をする。ヤマが萌えキャラのハンカチをそっと差し出してきて、朝月の肩の傷にあてがった。
「暗所恐怖症なんだ。皮肉なものだよ。復讐掲示板でちょっと煽ってやっただけなのに」
暗所恐怖症だから、ずっと落ち着きがなかったのか。それに、今度は復讐掲示板が出て来た。犯人はネット上で私たちを選んでいる。でも必ずしもそうじゃない。