29´.Mとの対面(付録2)アオイのNGワード

文字数 1,384文字

幸田君から頼まれていたことが、もう一つあった。
なんですか? 食べたかった物・飲みたかった物は、もう、いただきました。あっ、そうだ。まともなカレーライスも食べたかった。
幸田君は、カレーライスも下手なの?
基本的に、料理は全滅ですね。
あら、いやだ。
気にしないでください。あたしは、味覚より満腹感を追求してますから。
カレーをおいしく作るためには仕込みが必要。だから、アオイさんが次回ここに来るときに御馳走させて。
楽しみにしてます。それで、幸田から、いえ、幸田さんから頼まれたことって、なんですか?
アオイさんは神奈川生まれ、東京育ちでしょ。
東京っていっても、私が育ったのは田舎ですよ。昔は西多摩郡の一部だったところです。
でも、東京コトバを使ってきたのでしょう?
地元のお年寄りは西多摩の方言を使ってました。あたしの一家は横浜から引っ越したので標準語だったかな? それが、どうかしたんですか?
幸田君が、あなたが「バカ」と「ダメ」を使うのを聞いた事がないと言って不思議がっているの。彼は、あなたに理由を訊いて欲しいと、あたしに頼んだの。
そんな事、幸田が自分で訊けばいいのに。変な奴。
あなたに訊こう、訊こうと思っているうちに2年間経ってしまって、いまさら恥ずかしくて訊けないんですって。
でも、結局、Mさんを通して訊いてるじゃないですか。この方がもっと恥ずかしいと思うんだけど。
そういう見方もあるわね。
一緒に暮らしてたばあちゃんー―じゃなくて――祖母の影響です。
おばあ様の影響?
祖母は高知の出身で、戦後すぐに就職のために東京に出てきたんです。そして、初めての職場で上司から「バカ」と叱られた時と先輩から「それじゃダメ」と言われた時にすごくショックだったそうなんです。
あら、「バカ」も「ダメ」も、東京の人は当たり前に使う言葉なのに。
ばあちゃんが育った頃の高知では「バカ」も「ダメ」も使われてなかったそうです。
その代わりに、なんて言うの?
「バカ」は「アホゥ」、「ダメ」は「イカン」です。ばあちゃんは、「アホゥ」と「イカン」にはユーモアと優しさがあるって、言ってました。
そう言われると、そんな気もするわね。東京コトバは語尾をピシャっと言い切るから、冷たく厳しく聞こえるのかもしれない。
それで、あたしも両親も家の中では「アホゥ」と「イカン」を使ってたんです。あたしは、外で友達といる時は「バッカじゃないの」や「ダメじゃ、こりゃ」も使ってましたけど。
ということは、幸田君といる時は、昔ご家族といた時と同じ気分なのかしら?
え~っ、そんな事、考えてみたこともないなぁ。幸田があたしより年上だからじゃないですか? あたしなりに、一応敬意を払ってるみたいな?

こんな事、幸田に言わないでくださいよ。幸田がつけあがると困るから。

アオイさんも理由は分からない。幸田君にはそう伝えておく。それでいいかしら?
今回は、そうしといてください。そのうち、もし気が向いたらあたしから話します。
ところで、あなたとミツキさんの着替えを買ってあるの。私の好みで選んだから、あなたの趣味に合わないものもあると思う。気に入らないものは買い直すから、一緒に見てくれる。
うわ、ありがとうございます。あたしは着替えを持ってるけど少ないし、ミツキは着替えを全然持ってなくて、二人とも困ってたんです
二階に置いてあるから、見に行きましょう。
はい!
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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