52. ミツキとカスミ、幸田、参上

文字数 1,298文字

厚生会総合病院の正面玄関にミツキと幸田が現れる。幸田は、カジュアルな服装にショルダーバッグをかけている。ミツキは、キャップをかぶり、ショートコートにジーンズ、スニーカーと少年のような姿を装い、かなり大きなバックパックを背負っている。

病院の左手から銃声が続けて3発聞こえた。少し間をおいて、また1発。アオイが黒服姿の3人を撃った銃声だ。

救急外来でアオイが戦闘を始めたな。
幸田は、アオイに放電でなく銃を使うよう指示してあった。銃声で戦闘が始まった事を確認できるからだ。
ミツキ君、君の中でカスミ君は起きてるか?
はい。さっきから、私の中で、うるさくて、うるさくて。
バックパックに詰め込んで来た小型ロボ兵器を使うのが楽しみで、ワクワクしてるんだ。
おぉ、そうか。それは頼もしい。ついでにカスミ君がミツキ君の身体を乗っ取れ。
え?
同じミツキ君の顔でも、カスミ君が乗っ取っとると人相が悪くなる。防犯カメラで見つかりにくいだろう。
あたしは、凶悪なヤクザか……まぁ、あんたの言うことも、わからなくはない。お姉ちゃん、身体を借りるよ。
カスミがミツキになり替わる。確かに、険悪な人相になる。カスミと幸田は、堂々とロビーに入っていく。
しかし、こんな都心のど真ん中で人間兵器を作るなんて、良く思いついたもんだな。
都心のど真ん中だから、安心して人間兵器を作れるのさ。ここは周りに人目が多すぎて、特殊部隊に攻撃させられない。潜水艦からミサイルを撃ち込むことも、戦闘機で爆撃することも出来ない。

人里離れた山奥より、かえって守りやすいというわけか。
それに、人間兵器を製造するには脳検査機器と腕の良い脳神経外科医が必要だ。
これくらいの大病院なら設備も医療スタッフも充実してる。
その通り。
イイところに目をつけやがったな。
地下一階で火災報知機を発報させるぞ。地下二階の人間が様子を見に上がって来るはずだ。そいつと入れ違いに地下二階に降りる。
決めてきた段取りどおりだな。
地下2階に下りたら、君がロボ兵器で偵察し、攻撃する。私たちを襲ってくる者がいたら、脳破壊攻撃で殺してもいい。正当防衛だ。
言われなくても、お姉ちゃんを守るためなら、何でもする。
(カスミがミツキの身体の奥でか細い声を出す)カスミ、お願いだから、殺さなくて済む人を殺さないで。
また、そういう甘い事を言う。戦闘の混乱の中で、誰は殺さないとヤバくて、誰は見逃してもOKなんて、わかるもんか。手を挙げて降伏しない限りは、皆殺しだ。
私には実戦経験があるが、カスミ君と同じ意見だ。乱戦になったら、撃っていい敵といけない敵の区別などつかない。
ひとつ、心配なことがある。そうならないようにするけど、この身体をお姉ちゃんに返さなきゃいけなくなるかもしれない。
その時は、ミツキ君も「銃を向けられたら先に殺す」原則を守るのだ。そうしないと、君だけでなくカスミ君まで殺されることになる。
(か細い声で)わかりました。幸田さんの言う通りにします。
カスミと幸田は、1階の隅に監視カメラの目が届かない一角を見つけ、そこで火災報知機に発報させるためのムカデ型ロボットを起動させた。
さぁ、ビッグショーの始まりだ。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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