11.子どもたち

文字数 1,034文字

ミツキが入校して2週間。

ミツキは、すっかり、小学生以下の子ども達の人気者になっていた。

ミツキから何かをしかけるわけでなくても、子どもたちの方から寄ってくるのだ。

だが、一人だけ、例外がいた……。

ア、アオイ、お姉さん……。
おっ、伸一クン、おはよう。
伸一がもじもじしながら、画用紙を差し出す。
あの……これ……。
また、あたしの絵を描いてくれたんだ。


おお~っ、美人だねぇ。自分で自分に惚れ直しちゃうよ。


ありがとね。

ミツキがやってくる。
あっ、これ、アオイさんの絵ね。


伸一クン、本当に、絵が上手ね。

伸一がミツキから目をそらして、立ち去る。
あれ、伸一クン、私のこと、嫌いなのかしら?
そんなことないよ。あの子、人見知りだから。あたしと話してくれるようになるのにも、三か月くらいかかった。


それに、子どもたち全員をファンにしなくたって、いいじゃない。


伸一クンは、今のところ、あたしのただ一人のファンなんだから、あたしに取っといてよ。

いえ、そんな、みんなをファンにしようだなんて。


ただ、子ども達が寄ってきてくれるものだから……。

あは、冗談だよ。ミツキは、いやらしい「人たらし」じゃない。そこにいるだけで、子ども達が寄ってくるのさ。


ミツキが来てくれて、あたしは助かってる。

えっ?
あたしは、面倒くさいから、チビどもの相手はしない。中学生の子たちは、自分のことでアップアップだったりする。だから、チビたちが安心して甘えられるのは、太一先生だけだったわけよ。


そこにミツキが来て、おチビたちのイイお姉さんになってくれた。

(心の中で)このアオイさんが、博士が言うような悪い人だとは、私には思えない。口の利き方と態度に乱暴なところはあるけど、ウソがなくて、優しいところもある人だ。この人を、本当に、「始末」しなきゃいけないの?
いつの間にか、アオイとミツキの周りを、子ども達が取りまいていた。


ミツキに寄っていきたいが、アオイに遠慮している感じ。

ほら、弟ちゃん、妹ちゃんたちが、お待ちかねだ。


あたしは、備品庫で本を読んでる。コーヒーいれとくから、気が向いたら、おいで。

備品庫に行こうとするアオイを、イズミが追ってくる。
アオイさん、コーヒー飲みながらでいいから、この間やった英語テストの見直しをしない?


あれ、実は名門私大の入試問題に私が手を入れたものだったんだけど、アオイさん、すごいイイ成績だったわ。

ええ、まぁ、いいですけど。
ミツキ、じゃれついてくる子ども達の相手をしながら、心配そうにアオイとイズミを見送る。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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