18. ニセ救急車

文字数 1,577文字

5分も経たずに救急車のサイレンが聞こえ出し、スクールの前で止まった。


オチビちゃん達が騒ぎ出す。


うわー、救急車だ。
本物の救急車、初めて見るぞ!
ほらほら、みんな、どいて。

救急車の人達を邪魔しちゃいけないよ。

ストレッチャーを持った救命隊員が2人、備品庫に入ってきて、ミツキをストレッチャーに担ぎ上げる。


アオイが救命隊員たちに続いて救急車に乗り込もうとする。救命隊員の一人が両手を広げてアオイをさえぎる。

搬送先の病院は後で連絡します。そちらに来てください。
太一先生がアオイの後ろから、救命隊員に話しかける。

この子は、私の代理です。生徒が救急搬送されるときは、スクール長の私が付き添うルールです。ただ、今は、教師が私一人なので、他の子たちの面倒を見なければなりません。だから、私の代わりに、この子に行ってもらいます。

じゃ、そういうことで。
アオイは、救命隊員の腕の下をくぐって、救急車の治療室にもぐりこむ。


しょうがないなぁ。邪魔しないでくださいよ。
救急車がサイレンを鳴らして走り出す。

救命隊員はミツキを載せたストレッチャーの横に立っているだけで、何もしようとしない。

アオイの頭の中に、「こいつら、ニセ者では?」という疑いが広がる。
血圧を測るとか、病院に着く前にすることがあるんじゃないのか?
こういう症状の時は、下手に手を出さない方がいいんです。
テレビドラマだと、あちこちの病院に電話して受け入れ先を探すぞ。あれをやらなくて、いいのか?
すぐ近くに地域拠点病院があります。このあたりの救急患者は、みな、そこに運ぶんです。
でも、「これから行きます」って電話くらいした方がよくないか? 向こうにも準備ってものがあるだろ。
ストレッチャーの横で隊員2人が目配せし合った。上着をまくって、腰に手を回そうとする。


アオイはストレッチャーに飛び乗り、2人の救命隊員に同時に手を振れ接触放電した。2人が気絶する。


アオイが倒れた救急隊員の上着をめくると、腰に小型の拳銃を納めたホルスターを装着していた。

アオイはスマホでホルスターの写真を撮り、それから銃を抜き取り、弾倉を抜いてからストレッチャーの下に隠す。

おい、いったい、どうなってんだ。


運転席の救命隊員が、シートの背もたれ越しに治療室をのぞきこんできた。運転席と治療室はウォークスルーになっているから、状況はすぐに分かる。ドライバーの顔色が変わった。


アオイは、ドライバーに拳銃を向けた。

あんたの仲間は、1時間やそこらは起きない。つまんない考えは起こさないで、予定どおりの病院に、あたしを連れてきな。
撃つな。撃ったら、事故る。お前もただじゃすまない。
良いことに気づかせてくれた。最初の1発は、運転に関係ないところに当てるよ。耳を飛ばすとかな。


ひっ!

分かった、ちゃんと決められた病院に連れて行くから、変な気は起こすな。

10分ほど走った。

都会の中に、こんもりとした森が現れ、救急車は森の奥に通じる小道に入る。

樹々の間から一般的な小学校か中学校程度の大きさの建物が見える。

建物には「医療法人 大島病院」という看板がかかっている。

(ドライバーに銃を向け)

ここで、止めな。お仲間は地域の拠点病院に行くと言った。拠点病院ってのは、公立のでかいやつだろう。これは私立の中規模の病院じゃないか。


ウソつきで拳銃まで持ってるとは、たいした救命隊員だね。


(右手で銃を向けながら、左手でドライバーの肩に触れる)あんたも、眠ってな。

接触放電でドライバーを気絶させる。

上着をめくって、腰に拳銃を納めたホルスターをつけている姿をスマホで撮影した。

後ろから黒いミニバンが静かに近づいてきて、救急車のすぐ後ろに止まった。

運転席から幸田が降りてくる。

アオイも救急車から降りる。

タイミング、ぴったりじゃん。
これでも、一応プロのはしくれだからな。


さて、ここからが、いよいよ本番だ。

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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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