1.半グレ撃退

文字数 1,801文字

商店街と住宅街の境界で、どちらからも忘れられたような寂しい公園。街灯も、ろくすっぽない。

山科アオイは、暗がりでもみ合っている人影に後ろから声をかけた。

おい、やめな。
この公園では、以前に、会社帰りの女性が連れ込まれ乱暴される事件が起きている。

はぁ?
男が一人、振り向く。見るからに半グレという感じ。
ふてぇ声出すからオバハンかと思ったら、ガキじゃねぇか。
男が、もうひとり、振り向く。その向こうに、少女の姿が見えた。少女は胸の前に両手を組んで立ちすくんでいる。
おぉ、こいつ、結構イケてんじゃん。こうなったら、2人まとめて楽しませてもらおうぜ。
おお、そうすっか。今夜はついてるぜ。
「やめろ」って、言ってんだろ。お前ら、脳みそまでチンポコ化して「やめろ」って簡単な日本語もわかんねぇのか?
なんだと~!
立ちすくんでいる少女が泣きそうな声を出す。
女の人なら、逃げてください。あなたまで、こんな奴らに……
あたしの心配は無用だ。それよか、あんた、ちょっと目をつむってな。
このアマ、今、思い知らせてやる!
初めに振り返った男がアオイの右腕をつかみ、引き寄せようとする。腕が痛むほどの力だ。
おっと、あたしに触ったね、待ってましただ!
うわっ、おおっ、うわうわ! 痛てぇ、しびれるぞ!

離せ、俺の手を離せ!

離せだって? あんたが、あたしの腕をつかんでるんだぜ。
男が少しの間身体をふるわせてから、地面に崩れ落ちた。
あらあら、気絶しちまったよ。
もう一人の男が、引きつった声を出す。
ゲッ、なんだこりゃ! ヤバイ!
男が、公園から歩道に飛び出す。
おや、おや、相棒を置いて、とんづらかい。情けない奴だ。


待ちな!

アオイ、獲物を追うチーターのように男に追いすがり、肩をつかむ。
うわー、離せ、離せってんだよ。

おわっ、うぎゃー、おおお……

この男も身体をふるわせ、それが止まると同時に歩道に倒れた。
おやおや、こっちは泡ふいてるよ。どれどれ、うん、大丈夫、息はある。

それじゃ、お二人には、ここで起こったことは、忘れてもらおうか。

男の頭に親指・人差し指・中指の3本をあてがおうとしたアオイが、手を止める。
うん? どうやるんだったっけ?

最後にやったのが3ヶ月前だから、忘れちまった。

アオイ、恐る恐る、男の頭の3ヵ所に指をあてがう。
よし、これで、ちょちょっと電気を。

あれ、死んじまった……なんてこと、ないよな。おぉ、大丈夫、息してるわ。

では、もう一人も。

アオイ、公園に戻り、最初に倒した男の頭に3本の指をあてがい記憶を消す。
襲われていた少女が、目を閉じたまま言う。
あのぅ、助けていただいたんですね。

目を開けてもいいですか?

あっ、目は、まだ閉じててよ。
と言ってから、首をかしげて考えるアオイ。
(心の中で)どうせ、この子も記憶を消してしまう。目を開けてても同じことだった。ここから連れ出すにはに、目を開けてもらってた方がいい。
アオイ、少女に向かって言う。
あ、ごめん。やっぱ、目を開けてもらっていいわ。
助けてもらって、ありがとうございます。

あれ、お声から年上の方だと思ったんですけど、もしかして、私と同じくらいの歳ですか?

面白いこと、訊くねぇ。

あんたの歳を知らないんだから、あんたと同じような歳かどうか、答えられないじゃん。

私は、17歳です。
あゝ、じゃあ、同い歳だよ。

17歳。いいよね。Sweet Seventeen だ。


アオイ、少女を近くの交番に送り届ける。
すみません、交番まで送ってもらっちゃって。

あ、でも、お巡りさんがいない。交番は、夜出歩く女子の駆け込み寺なのに、空っぽのことが多いですね。

うん、治安上、困ったことだ。

(心の中で)この交番は空の時が多いんだよ。だから、ここに連れてきたんだ。

アオイ、少女を交番に押し込む。

ちょっと、頭にさわらせて。少しビリっとするけど、安心しな。

アオイ、少女の頭の3点に指をあてがい、記憶を消す。

全身の力が抜けて倒れそうになった少女を後ろから支え、デスクの後ろの椅子に座らせる。

交番の電話を使って110番を呼び出し、交番に気を失った少女がいることを告げ、すぐに電話を切る。

(心の中で)気を失ってるけど、交番にいれば、襲われることはないだろう。もうすぐ警官がかけつけてくるだろうし。

アオイ、交番のかけ時計に目をやる。
あっ、ヤバっ! 遅くなっちまった。早く帰らないと、幸田の奴がまた余計な心配するに決まってる。急いで「お家にGO」だ。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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