101. 「シェルター」の決定/その1「あるべき論」
文字数 1,456文字
都内の廃工場。Mは、彼女が属していたが国防総省と闘う事で迷惑をかけないために抜けた「シェルター」の「長老」と二人切りで会っていた。
レノックス博士を保護した上で彼女が国防総省を告発した文書をマスコミに送りつけたが、今のところ、取り上げられる気配がない。
ネットでも発信しましたが、フェイクだという反応が圧倒的です。CIAが組織的につぶしにかかっているのだと思います。
技術的な裏付けがないのが、痛い。せめて、設計図でもあればな……
博士は、身一つで逃げ込んでくるしかなかったですから……
レノックス博士が何度もトライしましたが、さすがにガードが固くて……
「シェルター」はアメリカ政府の秘密を暴露した凄腕のホワイト・ハッカーも匿っているが、さすがに、彼に手伝わせるわけにはいかない。
もちろんです。私たちのために、これ以上「シェルター」を危険にさらすことはできません。
アオイ君とミツキ君は、自分達が生きた証拠として名乗り出ると言ったそうだね。
ええ、自分たちの脳の切開手術をマスコミに公開するとまで、言いました。
見上げたガッツだ。しかし、二人が姿をさらすのは、リスクが大き過ぎる。
レノックス博士、幸田君、私の三人で必死に説得して思いとどまらせました。
賢明な判断だ。国防総省とCIAは、奥多摩山中の銃撃戦と厚生総合病院の爆破で死者を出した上に、現場に米軍の制式銃器を遺棄している。今は、各国の諜報機関の目が怖くて動けないでいるが……
アオイさんとミツキさんが姿を現したら、他国の目など気にせず、襲いかかってくるに違いありません。
国防総省の告発は手詰まりだ。これ以上告発を続けても、レノックス博士たちも、我々も、リスクが高まるだけだ。
わかりました。
既にグループを抜けている私の無理な願いをお聞き届けいただき、本当にありがとうございました。
君達と「シェルター」の関係だが、「世話役」会の全会一致で、アオイ君、ミツキ君、君と幸田君には、「シェルター」に戻ってもらう事になった。
なぜでしょう?私たちは、アメリカ国防総省とCIAのお尋ね者です。「シェルター」が私たちを受け入れることは、時限爆弾を抱え込むようなものです。
その通り……だがね……「世話役会」は、2つの理由で君達を「シェルター」に受け入れることにした。
まず、「べき論」から話そう。アオイ君とミツキ君はアメリカ国防総省に拉致されて人間兵器に改造された。しかも、未成年だ。
国防総省とCIAを敵に回すことになったとしても、この二人を保護しなければ、我々の組織の存在意義がなくなる。そういう結論になった。
そして、アオイ君とミツキ君を受け入れるなら、君と幸田君に引き続き2人を保護してもらうのがベストだ。
彼女たちの苦境を汲んでいただき、ありがとうございます。
喜ぶのは早いぞ。「世話役会」の決定には、もう1つ理由があると言ったはずだ。これが非常に「現実的」で生臭い理由なのだ。
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