101. 「シェルター」の決定/その1「あるべき論」

文字数 1,456文字

この「第1章(Another Version)新しい門出」は、

『アメリカ国防総省/人間兵器番号20185 山科 アオイ』から

『守護神 山科アオイ』へと橋渡しするものです。


『守護神 山科 アオイ』⇒https://novel.daysneo.com/works/3b1f40ed5ee0410dc3d8f7d2f0bcc032.html

都内の廃工場。

Mは、彼女が属していたが国防総省と闘う事で迷惑をかけないために抜けた「シェルター」の「長老」と二人切りで会っていた。

レノックス博士を保護した上で彼女が国防総省を告発した文書をマスコミに送りつけたが、今のところ、取り上げられる気配がない。
ネットでも発信しましたが、フェイクだという反応が圧倒的です。CIAが組織的につぶしにかかっているのだと思います。
技術的な裏付けがないのが、痛い。せめて、設計図でもあればな……
博士は、身一つで逃げ込んでくるしかなかったですから……
国防総省のデータベースには侵入できなかったのか?
レノックス博士が何度もトライしましたが、さすがにガードが固くて……
「シェルター」はアメリカ政府の秘密を暴露した凄腕のホワイト・ハッカーも匿っているが、さすがに、彼に手伝わせるわけにはいかない。
もちろんです。私たちのために、これ以上「シェルター」を危険にさらすことはできません。
アオイ君とミツキ君は、自分達が生きた証拠として名乗り出ると言ったそうだね。

ええ、自分たちの脳の切開手術をマスコミに公開するとまで、言いました。

見上げたガッツだ。しかし、二人が姿をさらすのは、リスクが大き過ぎる。
レノックス博士、幸田君、私の三人で必死に説得して思いとどまらせました。
賢明な判断だ。

国防総省とCIAは、奥多摩山中の銃撃戦と厚生総合病院の爆破で死者を出した上に、現場に米軍の制式銃器を遺棄している。今は、各国の諜報機関の目が怖くて動けないでいるが……

アオイさんとミツキさんが姿を現したら、他国の目など気にせず、襲いかかってくるに違いありません。

国防総省の告発は手詰まりだ。これ以上告発を続けても、レノックス博士たちも、我々も、リスクが高まるだけだ。

わかりました。

既にグループを抜けている私の無理な願いをお聞き届けいただき、本当にありがとうございました。

Mは、「長老」に向かって深々と頭を下げた。
君達と「シェルター」の関係だが、「世話役」会の全会一致で、アオイ君、ミツキ君、君と幸田君には、「シェルター」に戻ってもらう事になった。
なぜでしょう?私たちは、アメリカ国防総省とCIAのお尋ね者です。「シェルター」が私たちを受け入れることは、時限爆弾を抱え込むようなものです。
その通り……だがね……「世話役会」は、2つの理由で君達を「シェルター」に受け入れることにした。
2つの理由?
まず、「べき論」から話そう。アオイ君とミツキ君はアメリカ国防総省に拉致されて人間兵器に改造された。しかも、未成年だ。

はい。こんな理不尽な話は、ありません。

国防総省とCIAを敵に回すことになったとしても、この二人を保護しなければ、我々の組織の存在意義がなくなる。そういう結論になった。

そして、アオイ君とミツキ君を受け入れるなら、君と幸田君に引き続き2人を保護してもらうのがベストだ。

彼女たちの苦境を汲んでいただき、ありがとうございます。
喜ぶのは早いぞ。「世話役会」の決定には、もう1つ理由があると言ったはずだ。これが非常に「現実的」で生臭い理由なのだ。
Mは、緊張して「長老」の次の言葉を待った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色