25.カスミ、再びアオイを襲う

文字数 1,608文字

アオイがミツキがカスミに声を荒げるのを耳にした翌朝。朝食を終えた幸田が、「夕方までには戻る」と言って、クルマに乗りこんだ。


幸田のクルマを見送って小屋に戻ろうとしたアオイの意識が飛ぶ。気づいたら、小屋の入り口にミツキが倒れていた。

ミツキ、どうした?

アオイ、ミツキに駆け寄り、身体を揺さぶる。


ミツキがうっすらと目を開く。

ミツキ、大丈夫か? 一体、どうしたんだ?


アオイさん……ごめんなさい……私、身体を乗っ取られちゃって……
身体を乗っ取られた? 昨日ミツキが言い争ってた相手に乗っ取られたのか?
アオイさん、私たちが言い争うのを聞いていたんですか?
わりぃ、聞いた。盗み聞きしたわけじゃない。聞こえてきちまった。


ここじゃ冷える。ともかく、中に入ろう。

アオイ、ミツキを抱え起こして暖炉の前のソファーに横たえる。
今ココアを入れてくるから、待ってな。
キッチンに向かおうとするアオイの頭の中で、突然、聞いたことのない声が話しかけてきた。
アオイ、あんた、なんでそんなに速く放電出来るんだ?

あたしが攻撃しようと思った時には、もう、あんたの放電を浴びてた。

そんなこと訊かれても、わかんない。意識が飛んで、気づいたら放電し終わってる。

「あすなろ園」であたしを襲ったのも、あんたか?

そうだ。
あんた、一体、何者だ?
あたしは田ノ上カスミ。ミツキの妹だ。正確に言うと、あたしは霊魂だ。
やっぱり、そうか……

昨日ミツキが言い争うのを聞いて、ミツキの中に誰か他人がいるんじゃないかと思った。

他人じゃない。妹だって言っただろ。あたしは、お姉ちゃんと一緒に人間兵器に改造される途中で殺された。それ以来、霊魂になってお姉ちゃんの身体に居候してる。

ミツキの妹が、なぜ、あたしを殺そうとする? 
お姉ちゃんを守るためだ。お姉ちゃんは、あんたを殺さないと不良品として国防総省に廃棄されてしまう。
そんな国防総省とサヨナラしたくて、お姉ちゃんはあたしたちと一緒にいるんだ。
ははは、お姉ちゃんに、そんな強い決意はないよ。思いやりのある優しい人だけど、自分の意志がない。成り行きに流される。たまたまあんた達に連れてこられたから、一緒にいるだけだ。
ミツキが意志が弱いから、あんたが代わりに決断する。そう言いたいのか?
そうだよ。

あたしがいなけりゃ、お姉ちゃんは、生きていけない。あんたみたいな乱暴な連中に、いいように利用されて、すりつぶされちゃうんだ。

それで、ミツキも、あんたのおかげで生きてられると思って感謝してるのか?
当たり前だ。


お姉ちゃんは、今は混乱して、あたしの話を理解できない。だけど、落ち着いてあたしの話を聞けば、あんたを殺して国防総省に戻るのがベストだって、わかるはずだ。

そうかい。

じゃあ、あたしを殺すか、あたしと逃げるかは、あんたとミツキでよく相談して決めな。

あんたを始末して国防総省に帰る結論になるに決まってる。
ほぉ……

だけど、あんたとミツキがあたしを殺すと決めても、「はい、そうですか」って殺されてやる気はないからな。

どうする気だ?
決まってんだろう。

前みたいに、今みたいに、反撃する。何度でも、何度でも、反撃する。どっちかがボロボロになってくたばるまで、闘い続ける。


すっげぇくだらない気もするけど、命あるものは生き続けたいのだから、仕方ない。

カスミが少しの間、沈黙する。
そんなことは千に一つもないと思うが、もし、お姉ちゃんとあたしが、あんたを殺さないと決めたら、あんたは、どうする?
あんた達と力を合わせて、国防総省、CIAと闘う。


それあから、あんた達がどうするか決められないでいる間も、あたしと一緒にいる限りは、国防総省とCIAからあたし達4人を守るために闘う。

4人って、どの4人だ?
あんたとミツキ、幸田とあたしで、合計4人だ。
あたしは霊魂だぞ。人数に入れるのか?
あんたは、この世にい続けたいと思ってる。感情と意志を持って、あたしと関わってる。あんたも、人間だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色