第1~8章のあらすじ②/追う者たち
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したがって、人間兵器の技術を自国で独占することはアメリカの安全保障上の最優先事項であり、逃走した人間兵器、山科アオイと田之上ミツキは、他国やテロ組織の手に落ちる前に、何としても回収しなければならないのだった。
私は日本人の両親に17歳まで日本で育てられた。父と母が離婚し、脳神経科学者だった母がアメリカの研究機関に職を見つけたため、私は母と一緒に渡米した。母が、アメリカでテリー・レノックスと再婚し、私はレノックス慧子になった。
私は大学で母と同じ脳神経科学の道に進んだが、博士課程からはブレイン・マシン・インターフェイス (BMI)に専攻を変えた。博士課程を修了して民間の研究所に入った私は、そこでの実績を認められて国防総省にスカウトされた。
人間兵器の開発を命じられた時、私は、BMIの可能性を極限まで追求できると思い、飛び上がって喜んだものだ。米軍の職業軍人の志願者を改造して20181から20184までの4人の放電型人間兵器を誕生させた。
しかし、20185として、まだ17歳の、しかも日本人の山科アオイ(当時は、道明寺サクラ)を改造するよう命じられた時、私は抵抗した。アオイは20184までの4人と違ってアメリカに身命を捧げた人間ではないからだ。
だが、国防総省上層部から、命令に従わないと国家反逆罪で死刑にすると脅され、命惜しさに結局は人間兵器に改造してしまった。その代わり、私は、彼女にターゲットを特定する能力を与えなかった。暗殺兵器として実戦に投入されるのを防ぐためだ。そして、秘密研究所が武装勢力に襲われた時、そこに居合わせた私は、アオイの逃亡を助けた。
ミツキも、私は自分の命惜しさに人間兵器に改造した。ただ、ミツキが他人に共感しやすい脳の特性を持っていることを知り、暗殺される側の恐怖を予期する回路を組み込んだ。ミツキが暗殺者として利用されるのを防ぐためだ。
それでも、アオイの暗殺者にミツキを選んだのは賭けだった。アオイが巻き添えを出すのを恐れずに致死的な放電をしたら、ミツキの命がないところだった。私は2人が衝突しても2人とも生き残り、一緒に国防総省から脱出することを願った。どうやら、私の願いはかなえられたようだ。
しかし、ミツキが武器商人一味に加わったか捕らえられたかして、国防総省の追跡部隊を誘い出すオトリに使われてしまった。ミツキを抹殺しに向かった追跡部隊は待ち伏せされ、放電型人間兵器4人が失われ、人間兵器開発者のカレン・ブラックマン博士が拉致された。
武器商人にミツキとブラックマン博士を奪われた。アオイも武器商人の手に落ちている可能性が高い。武器商人が人間兵器を世界に拡散させ始めたら人類の危機だ。
私は、国防総省から逃亡しない証として細菌兵器と発がん性の極めて高い放射性マーカーの投与を受けた上で、武器商人一味をおびき出すオトリになることを決めた。
(実際は、アオイとミツキは武器商人には捕らわれておらず、まだ自由の身である)
レノックス博士がアオイの逃亡を助けた疑いで主任開発者の地位から降ろされ、私が後任として人間兵器開発を率いることになった。といっても、まだ、実戦に耐える人間兵器は作れていない。
私は、アオイを抹殺するために20181~20184の4機の放電型人間兵器を投入するよう提案したが、現在進行中のテロリスト暗殺作戦を優先するCIA作戦部長の反対で却下された。
しかし、ミツキがアオイに撃退され、しかもミツキも逃亡するという事態を受けて私の提案が採用され、4機の放電型人間兵器と国防総省の特殊部隊員で追跡部隊を編成しアオイとミツキの捜索を開始した。
ところが、私たちは、エル・リケルメと名乗る武器商人の一味に待ち伏せされ、放電型人間兵器は皆殺しにされ、私は、リケルメにさらわれた。
今、私は、離婚した夫のもとにいる娘を人質に取られ、人間兵器の開発を迫られている。人間兵器には特製のチップが必要で、その製造に時間がかかることをリケルメに伝えたところ、彼は、当座の資金稼ぎのため、まだ自由の身にあるアオイとミツキを捕獲して武器の闇市場で売ると言い出した。私は、非常に困惑している。
日系三世の私はアジア各国の言語に通じているため、長年、アジアでの工作活動に従事してきた。ずいぶん汚い仕事もしてきた。ハッキリ言って、もう人殺しは、ウンザリだ。私が殺した人々が夢に現れるので、睡眠薬を手放せない。
私は、放電型・脳破壊型の人間兵器は、核兵器と同様に人類が創ってはいけない「禁断の兵器」だと考えている。エンジニアとしての腕を振るいたい一心で2018シリーズと2019の初号機を作ってしまったレノックス博士の罪は重い。
そのあとを引き継いで新型の人間兵器を生み出そうとしているブラックマン博士にいたっては、悪魔としか言いようがない。
そのブラックマン博士が、ミツキとともに武器商人の手に落ちてしまった。おそらくアオイも一緒にいるだろう。何としても、博士と人間兵器を奪回しなければならない。それは、合衆国に対してというより、人類に対しての私の責務だ。
私は、そのためにレノックス慧子博士の力を借りることにした。
(実際には、ミツキとアオイはまだ自由の身である)