第1~8章のあらすじ②/追う者たち

文字数 2,378文字

人間兵器は、テロリストがテロを起こす前に先手を打って暗殺することを目的に、アメリカ国防総省が開発し、CIAが運用する特殊兵器。このような兵器をアメリカに敵対する国家やテロ組織も備えることになったら、CIAの工作員はもちろん、政府要人まで、つねに暗殺の恐怖にさらされることになる。

したがって、人間兵器の技術を自国で独占することはアメリカの安全保障上の最優先事項であり、逃走した人間兵器、山科アオイと田之上ミツキは、他国やテロ組織の手に落ちる前に、何としても回収しなければならないのだった。

私は、レノックス慧子。37歳。アメリカ国防総省の兵器開発者。

 私は日本人の両親に17歳まで日本で育てられた。父と母が離婚し、脳神経科学者だった母がアメリカの研究機関に職を見つけたため、私は母と一緒に渡米した。母が、アメリカでテリー・レノックスと再婚し、私はレノックス慧子になった。

 私は大学で母と同じ脳神経科学の道に進んだが、博士課程からはブレイン・マシン・インターフェイス (BMI)に専攻を変えた。博士課程を修了して民間の研究所に入った私は、そこでの実績を認められて国防総省にスカウトされた。

 人間兵器の開発を命じられた時、私は、BMIの可能性を極限まで追求できると思い、飛び上がって喜んだものだ。米軍の職業軍人の志願者を改造して20181から20184までの4人の放電型人間兵器を誕生させた。

 しかし、20185として、まだ17歳の、しかも日本人の山科アオイ(当時は、道明寺サクラ)を改造するよう命じられた時、私は抵抗した。アオイは20184までの4人と違ってアメリカに身命を捧げた人間ではないからだ。

 だが、国防総省上層部から、命令に従わないと国家反逆罪で死刑にすると脅され、命惜しさに結局は人間兵器に改造してしまった。その代わり、私は、彼女にターゲットを特定する能力を与えなかった。暗殺兵器として実戦に投入されるのを防ぐためだ。そして、秘密研究所が武装勢力に襲われた時、そこに居合わせた私は、アオイの逃亡を助けた。

 ミツキも、私は自分の命惜しさに人間兵器に改造した。ただ、ミツキが他人に共感しやすい脳の特性を持っていることを知り、暗殺される側の恐怖を予期する回路を組み込んだ。ミツキが暗殺者として利用されるのを防ぐためだ。

 それでも、アオイの暗殺者にミツキを選んだのは賭けだった。アオイが巻き添えを出すのを恐れずに致死的な放電をしたら、ミツキの命がないところだった。私は2人が衝突しても2人とも生き残り、一緒に国防総省から脱出することを願った。どうやら、私の願いはかなえられたようだ。

 しかし、ミツキが武器商人一味に加わったか捕らえられたかして、国防総省の追跡部隊を誘い出すオトリに使われてしまった。ミツキを抹殺しに向かった追跡部隊は待ち伏せされ、放電型人間兵器4人が失われ、人間兵器開発者のカレン・ブラックマン博士が拉致された。

 武器商人にミツキとブラックマン博士を奪われた。アオイも武器商人の手に落ちている可能性が高い。武器商人が人間兵器を世界に拡散させ始めたら人類の危機だ。

 私は、国防総省から逃亡しない証として細菌兵器と発がん性の極めて高い放射性マーカーの投与を受けた上で、武器商人一味をおびき出すオトリになることを決めた。


(実際は、アオイとミツキは武器商人には捕らわれておらず、まだ自由の身である)

私は、カレン・ブラックマン。35歳。アメリカ国防総省の兵器開発者。

 レノックス博士がアオイの逃亡を助けた疑いで主任開発者の地位から降ろされ、私が後任として人間兵器開発を率いることになった。といっても、まだ、実戦に耐える人間兵器は作れていない。

 私は、アオイを抹殺するために20181~20184の4機の放電型人間兵器を投入するよう提案したが、現在進行中のテロリスト暗殺作戦を優先するCIA作戦部長の反対で却下された。

 しかし、ミツキがアオイに撃退され、しかもミツキも逃亡するという事態を受けて私の提案が採用され、4機の放電型人間兵器と国防総省の特殊部隊員で追跡部隊を編成しアオイとミツキの捜索を開始した。

 ところが、私たちは、エル・リケルメと名乗る武器商人の一味に待ち伏せされ、放電型人間兵器は皆殺しにされ、私は、リケルメにさらわれた。

 今、私は、離婚した夫のもとにいる娘を人質に取られ、人間兵器の開発を迫られている。人間兵器には特製のチップが必要で、その製造に時間がかかることをリケルメに伝えたところ、彼は、当座の資金稼ぎのため、まだ自由の身にあるアオイとミツキを捕獲して武器の闇市場で売ると言い出した。私は、非常に困惑している。

私は、パトリック・マスムラ。55歳。CIAの工作員。

 日系三世の私はアジア各国の言語に通じているため、長年、アジアでの工作活動に従事してきた。ずいぶん汚い仕事もしてきた。ハッキリ言って、もう人殺しは、ウンザリだ。私が殺した人々が夢に現れるので、睡眠薬を手放せない。

 私は、放電型・脳破壊型の人間兵器は、核兵器と同様に人類が創ってはいけない「禁断の兵器」だと考えている。エンジニアとしての腕を振るいたい一心で2018シリーズと2019の初号機を作ってしまったレノックス博士の罪は重い。

 そのあとを引き継いで新型の人間兵器を生み出そうとしているブラックマン博士にいたっては、悪魔としか言いようがない。

 そのブラックマン博士が、ミツキとともに武器商人の手に落ちてしまった。おそらくアオイも一緒にいるだろう。何としても、博士と人間兵器を奪回しなければならない。それは、合衆国に対してというより、人類に対しての私の責務だ。

 私は、そのためにレノックス慧子博士の力を借りることにした。


(実際には、ミツキとアオイはまだ自由の身である)

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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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