37.アオイ追跡部隊の壊滅

文字数 1,974文字

山小屋へと急ぐカレンたち。前方で突然爆発音がとどろき、カレンを乗せたSUVが跳ね上がる。
(2号車のドライバーから)1号車、やられました! 地雷です。

アオイ達が地雷を持っているのか!

次の瞬間、カレンたちの真後ろで爆発音が響き、また、車両が跳ねる。マスムラが後ろを振り向く。6号車が側面から道路から飛び出し、樹々の間にめり込んでいた。
ロケット弾だ! 右手、川向うの林からきた。また来るぞ!
先頭と後尾をつぶされた。動きが取れない。クルマを降りて闘う。


放電型人間兵器2018シリーズ4名は、車から降りて、視認した人間に無差別放電。特殊部隊員は、4名を援護。

20181サイードです。20184スナイダー軍曹は6号車で被弾。連絡が取れません。残り3名の2018シリーズは車両から降り、無差別に放電攻撃します。



(2号車に乘っている特殊部隊長から)車両を降りて、2018シリーズを援護します。
私たちも、降りるわよ。
カレンは足元から自動小銃を取り上げ、姿勢を低くして助手席から飛び出す。ドライバー、チャン技術軍曹、マスムラも、それぞれ自動小銃を手に車を離れる。
敵は、川の向こう岸だ。視界に入った人間に、放電しまくれ!

2号車、3号車、4号車が、立て続けにロケット弾を食らって吹き飛ぶ。

スナイダー軍曹を除く3名の2018シリーズは無傷で、対岸の林に向けて放電を続ける。

敵はロケットランチャーを複数所有。発見して撃破せよ。
コンチキショー、クソッタレ、こんな所で死んでたまるか!
チャン技術軍曹が、対岸に向かって自動小銃を乱射する。
チャン軍曹、落ち着け。弾をばらまいてはダメだ。よく狙って撃て。
突然、カレンたちの背後からタカタカと軽快な発射音がした。チャン技術軍曹が後方から突き飛ばされたように倒れる。うつむけになった身体の下からどす黒い血が流れだす。
後ろだ。後ろの林から撃たれた。
後ろですって!
対岸に向けて射撃していた慧子は、後方の林を振り向く。後ろの林から黒ずくめの衣装に目出し帽姿の男がAK47を手に飛び出してくる。慧子が自動小銃を向けるより早く、男が横に弾き飛ばされた。慧子のすぐ後ろからサイード大尉が電光を浴びせたのだ。


博士、気をつけてください。左右から挟まれました。
と言いながら、サイード大尉が、また一人左手の林から飛び出してきた襲撃者に放電して吹き飛ばす。
右手、川の対岸の林からはロケット弾が飛んできて、特殊部隊員3名を吹き飛ばす。
(サレハ少尉)サイード大尉、左手の林から、どんどん出てきます。クルマを盾にしましょう。
ダメだ。クルマに戻ったら、ロケット弾の格好の餌食だ。
全員、左手の林に突入し、接近戦を行う。川向こうの敵は仲間を誤射するのを恐れてロケット弾を撃てなくなる。
カレンの指示で、追跡部隊は銃を撃ちまくりながら林に突入する。
博士、伏せて。
カレンが林の下草につっぷす。背中の上をマスムラが放った銃弾が飛び過ぎ、前方で悲鳴が上がる。
伏せているカレンの目に、前方で林の奥に向けて放電しているアブドゥラ軍曹がの姿が映る。軍曹の右手から黒装束の男が近づく。
アブドゥラ軍曹、伏せて!
カレンは、アブドゥラ軍曹の右手に飛び出してきた敵の腹に銃弾を浴びせる。敵は、後ろに飛んで木の幹にぶつかるが、銃はまだ保持している。
軍曹、とどめをさして!
軍曹が木の幹にもたれている敵に放電しようと身体を向ける。その時、腹に響くライフルの銃声が響く。軍曹の頭から花火が上がる。慧子には、そう見えた。
軍曹!

軍曹の身体がぐらっと揺れて倒れる。頭部に大口径の銃弾を浴びて血液と脳漿が飛び散るのが、慧子には花火に見えたのだ。

スナイパー、スナイパー、木の上だ! 木の上を見ろ。敵のスナイパーを見つけて始末するんだ!
(狙撃手)木が密集していて、敵スナイパーの姿が……

言いかけた狙撃手が頭を吹き飛ばされて倒れる。腹に響く銃声が続き、カレンの視界の中でサレハ少尉の後頭部に花火が上がる。

Shit!  スナイパーを探してつぶさないと。

背伸びして樹上に視線を走らせるサイード大尉の頭を銃弾が貫いた。
(特殊部隊員)隊長、上からはスナイパー、下からは、次々敵が出てきます。どうしますか?
隊員の悲痛な叫びに、隊長から応答はない。林の中は、敵味方入り乱れての乱戦となっている。
私が囮になる。スナイパーの位置を突き止めて撃ち殺して!
カレンは立ち上がり、林の奥に向かって駆け出す。突然、右肩に鋭い痛みを感じた。


どうせ、弾がかすっただけだ。 今は、かすり傷にこだわっているときじゃない。

ところが、森の中をジグザグに走っていると、視界がぼやけ、脚がもつれてきた。


これは、いったい?
右肩に手を触れると、金属製の棒のようなものが突き立っている。
まさか、毒矢が刺さったの?
急に目の前が暗くなり、カレンは意識を失い下草の上に倒れた。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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