55.慧子、参上⇒厚生会総合病院に突入

文字数 1,132文字

慧子は、アイマスクをさせられ、SUVの2列目シートで武器商人一味の男女に挟まれていた。周囲の騒音からすると、車は、まだ都内の中心部を走っているようだ。

右側で女性のスマホが鳴った。

はい、私です。

了解です。職員駐車場で待機します。

(運転席から、ドライバーが)どうしました?
地下一階で火災報知器が鳴っているそうよ。状況が把握できるまで、私たちは職員駐車場で待機する。
そうすか。ボスと合流する前に火事に巻き込まれちゃ、シャレにならない。
あら、私たちの行き先は、地下2階なの?
(心の中で)このドジが、余計なことを言いやがって。


(慧子に対しては)…………

クルマが速度を落とし、細かく左右に回り始めた。
(心の中で)このクルマの動き……駐車場に入ったのね。ショーの始まりよ。
慧子は、シートに座ったまま両脚を突っ張り、パンプスの左右のヒールを強く床に押し付けた。ヒールに穴があき、そこからガスが勢いよく吹き出すのを感じる。
うわっ、この紫の煙はなんなの! 早く窓を開けて!
慧子は、自分でアイマスクを外す。左右で男女がむせながら窓を開けようとしている。
窓を開けてもムダよ。皮膚に触れただけで効き目が出る神経毒なの。5秒後には、あなた達はあの世行き。
(慧子に向き直り)あ、あんたも、死ぬわよ……
私は拮抗薬を服用しておいたから、死なない。死ぬのは、あなた達。
この女狐……(と言いながら、意識を失って、慧子にもたれかかってくる)
(心の中で)脅しただけ。死にはしないわ。2時間くらい眠るだけ。
ドライバーが意識を失い、SUVがフラフラと駐車しているセダンに向かっていく。慧子は衝撃に備える。ガシャンと激突音がしてSUVが止まる。


慧子は、SUVのドアをあけ、女性の身体を駐車場に押し出して車を降りる。

女性のハンドバッグから奪われた拳銃を取り戻し、遊底をスライドして初弾をチェンバーに送り込みホルスターに収める。

(心の中で)この建物は、病院だわ。まさか、この病院で、人間兵器を作ろうとしているのしら? まぁいい。地下2階に行けば、わかる。
慧子、職員通用口に向かって走る。

通用口からスーツ姿の男が出てきた。慧子に目をとめ、左手でスーツのすそをまくり、右手を左腰に回す。慧子は、ヒップホルスターから銃を抜き、両手で構えて男に向ける。

動くな! 動いたら、撃つ!
男が右腰のホルスターから銃を抜いた。慧子は、男の左右の肩に一発ずつ銃弾を浴びせる。男がよろめいて病院の壁にもたれるが、まだ右手に銃を持っている。慧子、男に駆け寄り、右手に銃弾を浴びせる。
(男の手から銃が落ちるのを確かめながら)撃たれた場所が病院で、ツイてたわね。すぐに、手当てしてもらえるわ。
慧子は廊下に駆け込み、地下に通じる階段を探し始める。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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