14. お姉ちゃんの代わりに、あたしがアオイを殺す

文字数 1,261文字

アオイが自室のベッドに身体を投げ出すと、頭の中で、カスミが話しかけてきた。
お姉ちゃん、とうとう、自分の口でアオイを殺すと宣言しちゃったわね。でも、本当に出来るの?
出来る・出来ないの話じゃない。やるしかない。

やらなかったら、私が使えない兵器として廃棄処理される。あなたの居場所もなくなるのよ。

アオイさんを倒すのは、カスミと私を守るための正当防衛だわ。

正当防衛なら、アオイを殺せるっていうわけ? だけど、お姉ちゃんは、男どもに暴行されかけても 正当防衛できなかったんだよ。
カスミ、今の私は、人殺しの道具だよ。

道具は、人間の思い通りに使われる。レノックス博士とマスムラさんが、私を使ってアオイさんを殺すと決めれば、私は、その思い通りに使われてアオイさんを殺す。

バカだね。

前から言ってるじゃん。「アオイさん」って呼んでるところで、お姉ちゃんは、もう負けてる。お姉ちゃんは、アオイが大好きなんだ。ちょっとだけ尊敬したりもしてる。


アオイも、お姉ちゃんのことが大好き。

しかも、逃亡者のくせに間抜けなことに、お姉ちゃんのことを、信じ切ってる。

マスムラさんが言ったことを覚えてるでしょ。アメリカの国益に反する人を殺すのが私の任務で、そこに感情が入り込み余地は、ないの。
ほら、また、理屈を言う。何度、あたしに同じことを言わせるの。理屈で人は殺せない。人間は感情の動物で、その中でも、お姉ちゃんは筋金入りの「共感・愛情派」だ。お姉ちゃんには、自分を信じてくれてる人を裏切って殺すことなんか、出来ない。絶対に、出来ないよ。
カスミ、何が言いたいの?

改造手術であなたが死んで私だけが生き残ったから、私にも、廃棄処分されて死んで欲しい?

だったら、もうすぐ、あなたの所に行ってあげる。

だけど、廃棄物として行くのではない。アオイさんと刺し違えて破壊された兵器として、行くのよ。

バカなこと、言わないで!

私は連中に殺されちゃったから、お姉ちゃんには、生きて欲しいと思ってる!

…………
お姉ちゃん、私ならアオイを殺せる。アオイが憎いからでもアメリカのためでもなく、お姉ちゃんとあたしの命を守るために、殺せる。あたしは、お姉ちゃんと違う。あたしの人生を邪魔する奴は、殺してでも排除する。


イズミからアオイ殺害を命令されたら、お姉ちゃんの身体を、私に使わせて!

そんなこと……
出来るわ。


訓練の時に、一度だけ、私がお姉ちゃんの身体を借りたことがあったよね。あの時、普段のお姉ちゃんよりはるかに大きな破壊力が出て博士が驚いていた。

でも、博士があまりに驚いたので、万一、あなたの存在を博士に気づかれてはいけないと思って、私たちは、あの後一度も入れ替わっていないのよ。また入れ替われる保証はないでしょう。
あの時、あたしは、これなら何度でもできると確信した。


お姉ちゃん、私に任せて。


お姉ちゃんを守るためなら、あたしは、相手が誰であっても、殺せる。間違いなく、殺してみせる。

カスミ、それは、絶対にダメ。私が許さない。
言っとくけど、あたしはお姉ちゃんと心中する気はないからね。
カスミ……
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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