49. リケルメ、目論見をカレンに語る

文字数 1,897文字

カレンを最初に出迎えた女性がカレンの部屋を訪れ、リケルメから大事な話があると伝えた。彼女についてリケルメの部屋に行くと、リケルメが興奮した様子で待ち受けていた。
博士、国防総省内の協力者から面白い情報が入ってきた。

レノックス博士が逃走したそうだ。

それは、ガセねただわ。レノックス博士は私が横田基地で拘束した。基地から外に出るのは不可能よ。
それが、レノックス博士は拘束を解かれたのだよ。
まさか!

そんな事は、あり得ない。

そのあり得ない事が、CIAの早トチリが原因で起こったのだよ。

CIAは、あなただけでなく、田ノ上ミツキと山科アオイも、私の手中にあると考えている。ミツキとアオイを奪還するためにレノックス博士の助言が必要と考え拘束を、解いたのだ。そして、まんまと博士に逃げられた。

CIAも、ミツキがここにいるなんて、突飛なことを考えたものだわ。

それは、どうかな?

君は、ミツキが奥多摩のダムでイノシシを殺した映像を見て、追跡破壊部隊を動員し奥多摩にやってきた。そして、部隊は壊滅し、君はこうして私に囚われている。CIAが君をさらった人間がミツキを囮に使ったと考えるのは、ごく自然だと思うがね。

しかし、ミツキとアオイが一緒にいると考えるのは根拠のない希望的観測に過ぎない。

ハハハとリケルメが慧子をあざ笑った。
君も、その「希望的観測」に従って追跡・破壊部隊を率いて奥多摩に乗り込んできたのではないかね。

ミツキがアオイを攻撃した直後に、二人とも行方不明になった。単なる「希望的観測」よりも蓋然性の高い想定だと考えていたはずだ。

…………

私が、今、何を考えているのか知りたくないのかね?

関心ないわ。世界はあなたの周りを回ってはいない。
そうかな? 少なくとも、人間兵器については、この私が君やCIAや国防総省を操っている。私がこの小さな世界を回しているのだ。
では、世界の中心が、何をしたいのかしら?

田之上ミツキとカレン・ブラックマン博士を二人とも手に入れる。あわよくば、山科アオイも手に入れる。

あは、そんな好都合なこと、できるわけないでしょ。

出来るさ。私は、君に田之上ミツキが奥多摩にいると思いこませておびき出し、拉致した。同じように、レノックス博士にも、田之上ミツキのニセの居場所を教えて待ち伏せればいい。

レノックス博士はCIAと動いているのよ。CIAは私のことで懲りて、慎重になっているはず。同じ手がまた通用するわけがない。

だから、今回は、まず 田之上 ミツキ を手に入れ、ミツキをエサにレノックス博士を釣り上げる。
どうやって、ミツキを捕まえるつもり? あなたは、ミツキには商品価値がないと考えて追跡をやめた。ミツキは、あなたの手も、私たちの手も逃れてどこかに姿をくらました。もう、見つけることはできない。
人質を使う。
人質ですって?
ミツキが良く知っていて、大切に思っている人間だ。もう、目星はつけてある。

バカじゃないの? ミツキは人間兵器として使われるのが嫌で、CIA、国防総省という巨大組織から逃げ出した人間よ。人質を取られたくらいで、のこのこ出てくるわけがない。

君は、いま、ミツキのことを「人間」と言ったな? 君にとって人間兵器は「機械」のはずだと思っていたが。

…………
君は、ミツキが人質を見殺しにできる人間だと、本気で考えているのかね?

だとしたら、君は技術には通じていても、人間を見る目がない。田之上ミツキは自分のせいで罪もない人間が危険にさらされているのを放っておける人間ではない。

人質を取っても、そのことをミツキに伝える手段がない。NSAの電子的監視網を避けるために、スマホ、パソコン等は一切使っていないはず。
山科アオイの逃亡を助けてきたグループに心当たりがあってね。そちらから攻めればアオイに情報を伝えることはできる。
でも、アオイとミツキが一緒にいる保証はないわよ。
保証はないが、蓋然性は高い。それに、レノックス博士とセットで手に入れられるなら、アオイだけでも意味がある。レノックス博士にアオイの不具合を直させれば、納品をせっついている顧客にアオイと博士をセットで売り渡すことができる。
アオイこそ、人質のために身を投げ出すような人間ではないわ。
それはどうかな? これまでの行動を見ると、山科 アオイ は義侠心が強そうだ。人質を取られて動かずにいられるとは思わないがね。
なぜ、私にこんな話を聞かせるの?
君が、新しい脳破壊型人間兵器を闇の武器見本市に間に合わあわせて作れないことを苦にしていると申し訳ないと思ってね。当面の売り物の目途はあることを伝えて安心させてあげたいと思った。
思いやりに感謝するわ。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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