45. 慧子、オトリを志願する

文字数 1,386文字

マスムラから、放電型人間兵器と脳破壊型人間兵器は人類が持ってはならない「禁断の兵器」だと追及された慧子。「禁断の兵器」の拡散を防ぐためにカレン・ブラックマン、アオイ、ミツキを抹殺する作戦に協力する決意を固める。


アオイとミツキがまだ自由の身であることを、慧子もマスムラも知らない。

アオイとミツキを使っている敵の正体と居所をつきとめるのは、CIA日本支部の人的監視網とNSAの電子的監視網を総動員して、なんとかする。今回は、私が指揮官だ。私は、あなたと違って日本の裏社会にもネットワークを持っている。
もっと、手っ取り早い方法がある。
なんだね?
私がオトリになって、敵をおびき出す。

率直に言わせてもらっていいかな?

どうぞ。
敵は、既にブラックマン博士を手に入れている。リスクを冒してまで君を欲しがるとは、思えない。
私は、ニューモデルが出た後の旧モデルってわけね。確かに、その通りだわ。

でも、旧モデルでも、棚ボタで手に入るなら、手を出すと思う。

君は、自分から敵の手に転がりこもうって言うのか?

それは、絶対にダメだ。すでに、君は、合衆国を二回、裏切っている。みすみす三回目の裏切りを許すようなことは、出来ない。

私は、合衆国のためにこの任務を引き受けたのではない。


「禁断の兵器」を生み出してしまった責任者として、それが無制限に広がるのを防ぐために引き受けた。だから、人間兵器の製造を企てる連中に力を貸すはずがない。それだけは、信じて欲しい。

百歩譲って、君をオトリに使うとしよう。

しかし、その場合でも、敵の正体と居場所を突き止めないと、君が寝返りたがっていると敵に伝えることができない。かかる手間と時間は同じだ。

私が逃走したことにして、捜索を始めればいい。

あなた達が待ち伏せされた事から見て、国防総省かCIAに敵に内通している人間がいるに違いない。私の捜索が始まれば、その人間が敵に通報する。うまく行けば、内通者を突き止めることもできるわよ。

ははは、私をだまそうとしても、そうは、いかない。

君は、本気で、逃走するつもりだろう。

私が絶対に逃げられないようにしておけば、いい。


暗殺用細菌兵器X-11Aを私に投与すれば? あの細菌は潜伏期間が1ヶ月ある。 私が敵の懐にもぐりこむのに十分な時間だわ。抗体は国防総省にしかないから、私は、逃走したら間違いなく死ぬ。しかも、発病しても、周囲には感染しない。

なるほど……

だが、我々のもとを離れた君を、どうやって追跡する。電波発信機、GPSは、敵が徹底して調べるぞ。そんなものを装着していたら、その場で君は殺される。

開発中の放射性マーカーRTXを使えばいい。あのマーカーを血液中に注入すると、内臓に付着して、体外に排出されない。専用のトレイサーを使えば、この先、私が生きている限り、いいえ、死体になっても、追尾できるわ。
強い発ガン性から実用化が見送られているマーカーを飲み込むつもりか?
エージェント・マスムラ、この任務が終わったら、どうせ、私は国家反逆罪に問われる。最悪、死刑。良くて終身刑。
君のような特別な才能と経歴の持ち主は、合衆国の研究施設で強制労働という可能性もある。
私は、次の「禁断の兵器」を作らされるのは、まっぴらなの。
それが、君の覚悟……ということか?
「禁断の兵器」を産んでしまった者としての、責任の取り方だわ。
わかった。君の案を採用しよう。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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